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アナゴン・クムクム・チョウバチョウ・ゲツリ・シンシンニョーッ!

Eaterが選んだ2020年秋のcookbook その5

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今秋発売のcookbookのなかから、オンラインフードマガジン「Eater」が選んだ17冊をご紹介しています。

前回のストーリーでは、アメリカの人気料理家が書いた、人気料理ばかりを集めた「最初の一冊」にぴったりなcookbookと、ノンアルコールドリンクの可能性を追求するcookbookをご紹介しました。

アメリカでは特に若者を中心にノンアルコールドリンクが流行っているということで、今後日本でも認知が高まってくるにつれて、ストロングゼロのような高アルコールドリンクとの二極化が進んでいくんじゃないかな?

これって保守とリベラルの分断にそっくりですよね……。

さて気を取り直して、本日も期待の新刊を見ていきたいと思います。

ヨタム・オットレンギ&イースタ・ベルフレイジ『Ottolenghi Flavor: A Cookbook』(テン・スピード・プレス、10月13日)

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ヨタム・オットレンギの新しいcookbookが『Plenty 3』や『More Plenty More』でなかったのは、おそらく良いことなのだろう。cookbookという彼の作品の方向性を、「ファスト&フューリアス」の領域に向かわせなかったことは。

イタリック書体になっていたのであえて日本語にしなかったんですが、「ファスト&フューリアス」というのは「白熱している」という意味。

そしてcookbookで白熱している領域と言ったら、「手早くできて、インパクトが強い」cookbookであり、文字通りの「ファスト&フューリアス」になるわけです。

こういうダブルミーニングがあるので、元記事ではイタリックになっているんでしょうね。

ちなみに、「ファスト&フューリアス」というのは映画『ワイルド・スピード』の原題でもあります。

それで何が言いたかっというと、オットレンギのこれまでの『Plenty』シリーズは、時短・簡単レシピを「大量に」集めたシリーズだったわけです。

オットレンギと言えば時短。時短と言えばオットレンギ。

ある意味、それが時代に合っていたんですよね。

ところがこの『Flavor』は、趣向がまったく異なっている。

しかし彼の最新刊である『Flavor』を理解するには、これまでの『Plenty』シリーズが野菜に焦点を当て、その下ごしらえや組み合わせに創造的な手段を用いてきたことと同じように理解するのが良いと、このロンドンのシェフも自認している。

あ、そうそう、ヨタム・オットレンギについて予備知識が必要という方は、ククブクのこれまでのストーリーも読んでみてくださいね。

オットレンギのテストキッチンのレシピ開発者である、イースタ・ベルフレイジとの共著である『Flavor』は、3つの観点からレシピを紹介している。

著者のイースタ・ベルフレイジ(左)とヨタム・オットレンギ(右)

「調理工程」の章では焦がしたり、発酵させたり、野菜を変化させる特別なテクニックについて掘り下げていく。

『Ottolenghi Flavor: A Cookbook』より

「ペアリング」の章はサミン・ノスラットのファンには耳なじみの視点をとっており、脂肪、酸、トウガラシの辛さ、そして甘味の完璧なバランスのとれたレシピが載っている。

『Ottolenghi Flavor: A Cookbook』より

そして「生産」の章では、複雑な味覚、取り扱い方が必要となる食材にフォーカスを当て、マッシュルームやタマネギ(その他ネギ族の仲間)、ナッツやタネ類、果物やお酒に含まれる糖分といった、それ自体検討を加える価値がある食材については、小分類を設けている。こうした結果、オットレンギ流の典型のように、複数の段階、複数の食材、そして複数の特色があるレシピとなっていて、ページからそのフレーバーが飛び出してくること請け合いだ。

要するに、『Plenty』シリーズが何も難しいことを考えなくても、おいしいものが作れてしまう受動態のcookbookであったのに対し、この『Flavor』は理屈をしっかりと学びながら料理を組み立てていく能動態のcookbookであるわけです。

『Ottolenghi Flavor: A Cookbook』より

「セロリ根のキャベツ・タコス デーツのBBQソース添え」「リコッタチーズとカリカリのチポトレ、エシャロットのサフラン・タリアテッレ」などなど。実際、チポトレとその他のトウガラシはこの本のなかにあふれていて、これはベルフレイジがメキシコ・シティー出身であるおかげ(冒頭の記載にあるように、「以前のオットレンギの本だったらレモンが登場するところに、ひとつかふたつのライムを」)。これらのメキシカンフレーバーが、ブラジル、イタリア、複数のアジア料理のフレーバー(しいたけ出汁やピーナッツ・ラープの麺などを調べてみよ)とともに、オットレンギの「ユージュアル・サスペクツ」たち — — ザアタル、スターアニス、ハリッサ、ラブネ — — と結合するので、『Flavor』はすでに書棚に『Plenty』や『Plenty More』を持っている家庭のシェフにも、一読する価値があると言えよう — — エリー・クルプニック

ロンドンの野菜デリで有名になったオットレンギですから、もちろん登場する100種類以上のレシピは野菜料理が中心。

『Ottolenghi Flavor: A Cookbook』より

「焦がす」「マリネする」「発酵させる」というちょっとした工夫で、素材が持っている味わいの深さを引き出すことができるのは、この秋の大きな学びとなるはずです。

ジェイソン・ワン&ジェシカ・K・チョウ『Xi’an Famous Foods: The Cuisine of Western China, from New York’s Favorite Noodle Shop』(エイブラムス、10月13日)

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ニューヨークのレストランチェーン「西安名吃」のデビューcookbookは、同店の手延べ麺をすすったことがあるひともないひとも、手に取るだけの価値がある。

「西安名吃(シーアン・フェイマス・フーズ)」は、2005年にニューヨーク・クイーンズで屋台をオープンして以来、マンハッタン、ブルックリンと店舗を14店にまで拡大していった中国・西安料理のカジュアルなお店。

cookbookの表紙となっている極太の手打ち麺のヴィジュアルを見ただけでも、だれもが一度は店を訪れたくなる理由が分かりますよね。

これはフードビジネスの経営についての本である。CEOのジェイソン・ワンがこのビジネスに飛び込む前に知っておくべき5つのレッスンについて概説しており、レストラン帝国を経営する魅力について、そのうわべの部分をはぎ取って語っている。

著者で西安名吃のCEOであるジェイソン・ワンは、レストラン事業の成功によって料理家としては「Eaterヤング・ガン」やザガットの「30歳以下30人」、経営者としてはフォーブス誌の「30歳以下30人」に選ばれるなどしています。

マンチーズの料理動画に共同経営者といっしょに出演しているのを見つけました。

若いですよね!

そしてふたりが作っているのは、多画数漢字として話題となったあの「ビャンビャン麺」ですよ!

つまり、日本では主に漢字の難しさでバズったビャンビャン麺ですが、実はそれ以前にニューヨークで料理そのものが人気になっていたという布石があったんですね。

これは中国・西安のフレーバーについての食の歴史書でもある。楽しめるレイヤーがたくさんあって、『Xi’an Famous Foods』はレストランcookbookがどうあるべきかという最高の見本となっている。

本のほとんどの部分は、テレビシリーズのように読めるだろう。ワンの挑戦、失敗と成功、西安からミシガン州の田舎町への人生を変えた移動、ニューヨークのコリアタウンでの夜の外食、父のビジネス「西安名吃」を引き継ぐまでと、エピソードが分割されている。こうしたエピソードのそこここに、熱々で口内のヒリヒリするレストランの料理のレシピが登場する。

レシピはおよそ160種類が掲載されています。

西安名吃の有名な麺のつけだれ(黒酢、オイスターソース、フェンネルシード、そして花椒のスパイシーなフレーバーがアクセントになっている)、手延べ麺を作るテクニックの説明もあり、そこには役に立つイラストとヴィジュアル的な解説が添付されている。

挑戦してみたい熱心なホームクックのために、『Xi’an Famous Foods』は最高の火鍋を家庭で作るためのコツも提供してくれる。そしてアジア食材店でいつも混乱してしまうひと向けに、そのフレーバーや料理での使い方のメモ付きで、基本的な常備食材のリストがついている。あなたが夢中になるのが料理とワンの個人的な関係についてであれ、料理の長い歴史であれ、どのレシピも西安料理に対するあなたの知識と称賛の気持ちを広げてくれることだろう — — ジェイムズ・パーク

ああ、とにかく食べてみたい!

ニューヨークへ行くことができないのがもどかしい。

「スペリオリティー・バーガー」が日本に来ているくらいなんだから、西安名吃も日本への出店を本格的に検討した方がいいと思いますよ……。

それまではこのcookbookで再現して、味を想像してみるしかないですね。

といったところで、今日のご紹介はここまで。

続きは以下のリンクからお進みください。

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。