ノンアルコール・モータリゼーションの時代に
Eaterが選んだ2020年秋のcookbook その4
今年の秋に発売されるcookbookのなかから、オンラインフードマガジン「Eater」がピックアップする17冊をご紹介しています。
前回のストーリーでは、メキシコの家庭料理75種類以上を収めたブログ発のcookbookと、ニューヨークのパイ専門店による「完璧なバランス」のパイが作れるcookbookをご紹介しました。
『Pie for Everyone』はピザ作りのcookbookのように、最初に何種類かの生地作りをまとめて教えてくれるところがブートキャンプっぽくて良いなと思いました。
それじゃあ今日も、新刊リストの続きを見ていきましょうか。
アイナ・ガーテン『Modern Comfort Food: A Barefoot Contessa Cookbook』(ランダム・ハウス、10月6日発売)
作るよりも読みたくなるcookbookというのはたくさんあるが、『Modern Comfort Food: A Barefoot Contessa Cookbook』はそういう本ではない。いつまでも色あせることのない、充分にテストされた料理の女王であるアイナ・ガーテンは、この12冊目のcookbookのなかで、今まで以上に私たちが求めているコンフォートフードのレシピを85品シェアしている。
日本ではびっくりするくらい知名度のないアイナ・ガーテンですが、アメリカでは知らないひとはいないくらいの超人気料理家。
ホワイトハウスの行政管理予算局に勤務していた彼女は、義母がタイムライフのcookbookシリーズの定期購読をプレゼントしてくれたことをきっかけに、料理に目覚めたんだそうです。
1978年に予算局を辞めたアイナは、ニューヨークのウェストハンプトン・ビーチに「ベアフット・コンテッサ」という食品店を開業。
これがのちに、彼女の代名詞「裸足の伯爵夫人」となったんです。
ひたむきなホームクックであれば、これらの手のかからない料理のほとんどをすでに知っているかもしれないが、最高の食材を見つけるためのガーテンによる考え抜かれたテクニックとガイダンスがあれば、「チキン・ポットパイ・スープ」や「ラム肉のラグーのベイクド・リガトーニ」、「鶏肉とジャガイモのスキレット・ロースト」といった料理が、新しくもワクワクしたものに感じられるだろう。
確かに載っているレシピは、どれも定番的なものばかり。
それなのに、彼女の手にかかると特別な料理に見えてしまうから不思議です。
例えば「鶏肉とジャガイモのスキレット・ロースト」は、鶏肉をジューシーでしっとりさせるためにバターミルク・マリネードを必要とする。いっぽうジャガイモはスキレットの底、鶏肉の下で肉汁を吸って調理され、鶏肉のフレーバーを吸収することで、ふたつの控えめな食材がファビュラスなディナーになるのだ。
このやり方、このあいだ『ジョブチューン』でやっていた林享シェフの「ジャガイモとツナのペペロンチーノ」を思い出しました。
「裸足の伯爵夫人」シリーズであるこのcookbookもまた、アイナのように生きたい、料理したい、食べたいというファンたちに、長いあいだインスピレーションを与えてきたストーリーや見事な写真(ガーテンと夫のジェフリーの多くの心あたたまる写真も含む)を備えている。しかしガーテンの他の書籍に比べて、『Modern Comfort Food』は料理界のスターをイースト・ハンプトンの堂々たる女王というよりも、日曜日にチョコレート・チップ・クッキーを持ってきてくれる愛すべき隣人として描いている。
コロナ禍のいま、クイーンという象徴的な存在ではなく、身近な隣人が必要とされているということですよね。
本書の冒頭でガーテンは、近頃は(私たちと同じように)いつもよりちょっと不機嫌になっていると認めており、夕食に冷たいマティーニとアイスクリームのタブに手を伸ばしてもオーケーだと記している。こうしたところから、彼女が「裸足の伯爵夫人」として、どのように20年以上もたくさんのひとの心を鷲掴みにしてきたのかがわかるというものである — — ジェイムズ・パーク
日本では食エッセイとレシピ本が完全に分離してしまっていますが、こうやって主観的な感情がときおり現れる、そんなレシピ本がもっとあってもいいんじゃないかと思います。
ジュリア・ベインブリッジ『Good Drinks: Alcohol-Free Recipes for When You’re Not Drinking for Whatever Reason』(テン・スピード・プレス、10月6日発売)
近ごろは多くのひとがお酒を飲むことに違和感を感じている。私たちの消費習慣がそれを示していて、低アルコール度数のハードセルツァーや、上品なノンアルコールの食前酒、あるいは「ドライ・ジャニュアリー」のような禁酒月間の人気などが当てはまる。
ハードセルツァーは、アメリカ西海岸を中心に人気のアルコール飲料。
フルーツのフレーバーがつけられていて、その点では日本のチューハイに近いですが、大きく違うのが、日本では近年「-196℃ ストロングゼロ」などのアルコール度数が高いもの(9%)が売れ筋であるのに対し、ハードセルツァーは低アルコール度数のもの(4%〜5%)が人気だという点。
なんでしょう、社会の生きづらさの違いなんですかね……。
著者のジュリア・ベインブリッジはこの種の禁酒の流動的な性質を理解している。それこそが彼女がアルコールの入っていないドリンク本の副題に「何の理由であれ、あなたが飲めないときのために」とつけた理由だ。結局のところ、思慮深くブレンドされ、あなたを酔わそうとしないドリンクを楽しむからって、永遠にアルコールを避ける必要性はないのだ。
ジュリア・ベインブリッジは、『コンデナスト・トラベラー』誌や『ボナペティ』誌などで活躍した編集者。
本書『Good Drinks』では2018年の夏に、スバル・インプレッサでアメリカじゅうを車で旅し、訪れる先のバーやレストランで洗練されたノンアルコールドリンクを採取したんだそうです。
『Good Drinks』に載っているドリンクは、それらを楽しむ時間ごと(ブランチのおとも、ハッピーアワーのドリンク、食前酒)に構成されていて、高級なカクテルバーにあるものと同じくらい複雑で革新的(で手間がかかるもの)だ。
材料にはブラック・カルダモン・シナモン・シロップや、ソバ茶、そしてトマトとスイカのジュースといったものが必要となり、それぞれのレシピも載っている。
「トマトとスイカのジュース」が必要なのは、この梅酢を使うドリンク。
「梅がうめー」というダジャレまでわかった上でのこのドリンク名、なんですかね。
ピムス風のノンアルコール(シトラス、ルイボス茶、ラズベリー酢、ゲンチアナの根)のレシピさえ載っている。どれもどんな時にも合うお祭り気分、おめでたいドリンクなので、お酒を飲まないひとももうクランベリージュースとセルツァーだけにこだわる必要はなさそうである — — ジャヤ・サクセナ
登場するドリンクのなかには、ニューヨーク「デス・アンド・コー」やシアトル「ディープ・ダイヴ」といった名店のバーテンダーが考案したものもあって、そうか、ノンアルコールドリンクがもっと進化して流行れば、車に乗ってハシゴすることも可能になるんだな、とジュリアの旅を想像しながら考えました。
といったところで、今日のご紹介はここまで。
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