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うずまき模様は故郷のしるし

Eaterが選ぶ秋のcookbook 2019年版 その8

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
11 min readOct 11, 2019

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フード情報サイトEaterの9月3日付け記事から、この秋に発売される新刊cookbookを紹介しています。

前回のストーリーでは、政治・国家的な「イスラエル」ではない、実際にそこに住むひとたちが食べている「イスラエル料理」をフィーチャーしたcookbookと、約20年前に時代を風靡した四川料理のcookbookのリバイバル版をご紹介しました。

『Sababa』を読むと「食に国境はない」ということを再認識させられます。

さて今日は最終回。

今度はイスラエルという土地ではなく、ユダヤ人という文化的共通性を持つひとたちをくくりにしてレシピをまとめたcookbookと、アメリカの南部沿岸部(だいたいヴァージニア州のヴァージニアビーチからフロリダ州キーウェストまで)に焦点を当てた地域的cookbookの2冊が登場します。

どうぞ最後までお楽しみください!

レア・ケーニグ『The Jewish Cookbook』(ファイドン、9月11日発売)

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cookbook作家でユダヤ料理のドキュメンターであるレア・ケーニグは、世界中から現在実際に作られているレシピを集め、そのひと握りを家庭料理として最新作『The Jewish Cookbook』に盛り込んだ。世界中に散らばったユダヤ人の幅広いフレーバーをすべて記録して読者に紹介するという、彼女の野心的な目標にぴったりの大掛かりなタイトルだ。

ファイドン社の国別cookbookシリーズの新刊は、国ではなく、世界中に離散しているユダヤ人の料理を集めたものになっています。

表紙のうずまき模様は、東ヨーロッパ系のユダヤ人たちに食べられているというこの「シュネッケン」なのかな?

『The Jewish Cookbook』より

著者のレア・ケーニグはニューヨーク・タイムズ紙を始め、サヴール誌、エピキュリアス、Food52などさまざまな媒体に記事とレシピを提供している、ニューヨーク在住のライターです。

『The Jewish Cookbook』は、代々受け継がれてきたこの料理を正しく理解しているものだ。ケーニグは、アシュケナージ系ユダヤ人が過ぎ越しの祝いをするときの定番である「ゲフィルテ・フィッシュ」から、セファルディム風あるいはミズラヒム風のスイーツまで、酸味のあるトマトとオクラ、イーストを使った飾りのついたパンプキンパン、

『The Jewish Cookbook』より

ドイツ風の牛肉とスペルト小麦の煮込みなどをこの一冊に巧みに閉じ込めている。各料理の由来と地域による違いなどを説明するメモのコーナーも設けられている。

「ゲフィルテ・フィッシュ」というのは、ユダヤ教が安息日に食べる魚料理の定番。

日本の「つみれ」みたいで、ぼくたちからしたら特に違和感は感じないのですが……。

いままで食べたことのないひとが感想を述べる動画を見つけたので、貼っておきますね。

みんなのリアクションが面白い。

この厚い本には美しくも実用重視で撮られた写真がたくさん掲載されていて、レシピを理解するのにひと役買っている。ケーニグはマイケル・ソロモノフやマイケル・シェムトフ、アロン・シャヤといった有名シェフたちから寄せられた料理によって、自己の能力を伸ばすようにと読者を勇気づけもする。

マイケル・ソロモノフはフィラデルフィア「ザハヴ」のオーナーシェフ。

アロン・シャヤはニューオーリンズの「シャヤ」のオーナーシェフ。

それぞれが書いたcookbook『Zahav: A World of Israeli Cooking』『Shaya: An Odyssey of Food, My Journey Back to Israel』も名著なのでオススメですよ。

とはいえ彼女は、プチャ(牛足の酢漬け)のような現代的な食卓に向けて用意された料理よりも、歴史において自分たちがどこにいたかによって料理はより記憶されるという自身の料理観を崩したりはしない。

プチャはコーシャー・デリのお惣菜で最近人気があるみたい。

でもレアは料理はそういう流行りすたりで語られるものではなく、どのような土地にいたか、その場所の気候はどうか、そしてその土地のどのような食材を使ってきたかによって語られるべきだと考えているんですね。

『The Jewish Cookbook』より

世界中に広がる料理が満載の『The Jewish Cookbook』は、その膨大な食材リストによって読者を呆然とさせるというよりも、読者がふと思いついて何か新しいことに挑戦するのを勇気づけてくれる存在になってくれるだろう — — そしてこれまでよりも少しだけ、ユダヤ文化のことを学ぶこともできるだろう — — ブレナ・ハウク

アカデミックにユダヤ料理のことを知りたければ『The Jewish Cookbook』、もっとカジュアルに料理を楽しみたければ、前回の『Sababa』がオススメかな。

ホイットニー・オタウカ『The Saltwater Table: Recipes from the Coastal South』(エイブラムス、10月22日発売)

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カンバーランド島は見逃しやすいものの、ジョージア州の大西洋岸のシーアイランドのなかでは最大で、何世紀もそこに存在している。土地は湿地帯で、アカウミガメや野生馬、サルオガセモドキが滴る危険なオークの木、弾力のあるパルメットヤシの宝庫なのだが、ジョージア州の片隅にあるためあまり多くのひとが見に訪れることはない。

このcookbookの著者ホイットニー・オタウカは、ジョージア州カンバーランド島のホテル「グレイフィールド・イン」のシェフ。

カンバーランド島がどこにあるのかというと、だいたいこのへん。

フロリダ半島、そしてカリブ海に近いこの辺りは沿岸部に小さな島が多いんです。

このスライドショー動画を見る限り、フロリダ半島のギラギラした風景ともちょっと違う、とても落ち着いたリゾートアイランドといった感じ。

本当に野生馬が多いのね。

シェフのホイットニー・オタウカは新しい冒険を探すためにアトランタのダイニングシーンに別れを告げ、2010年にこの土地に移住した。

カリフォルニア出身のホイットニーは、ジョージア州アセンズにあるヒュー・アチソンのレストラン「5&10」でスー・シェフを務めた後、ニューヨークやヨーロッパのダイニングシーンを訪ねまわり、2010年にグレイフィールド・インのエグゼクティヴシェフに就任しました。

夫のベンとホイットニー

彼女と夫で同僚シェフのベン・ウィートリーはこれらを現地の高級ホテル、グレイフィールド・インにいるときに見つけたのだ。そして彼女はいまやそこのエグゼクティヴシェフを務めている(ウィートリーがシェフ・ド・キュイジーヌ)。『The Saltwater Table』でオタウカは、自らが学びインスピレーションを得たこの沿岸地方の料理文化を、明るく色あざやかに表現している。その料理文化とは、ヨーロッパの巨大産業のために買われ、奴隷として連れてこられた西アフリカ人たちによって発展してきた食文化である。

このあたりはアメリカ独立13州のうちの最後期に設立されたジョージア植民地があったところで、スペイン領フロリダとの境にあったため、自由を求めて逃亡した奴隷たちを食い止めるための要地でもありました。

同じジョージア州のアトランタなどと同様に、アフリカ西海岸にルーツを持つ南部料理が発展した地域でもあります。

このゴージャスなレシピ集で、オタウカは自分が生まれたカリフォルニアでの年月と、ヘスペリア(彼女が育った砂漠の街)にいるときに受けたたくさんの料理的な影響、フランスやメキシコへの旅行、そしてジョージア州での10年にわたる料理経験を融合させた。彼女はジョージア州にいるときに、南部料理の複雑な歴史を理解し始めたのだ。

『The Saltwater Table: Recipes from the Coastal South』より

南部沿岸地方においては臨機応変であることが王様で、火を熾して牡蠣のローストを作るときでも、ピクニック料理を詰めるときでも、オタウカはその精神を読者にも感じ取ってほしいと考えている。

『The Saltwater Table: Recipes from the Coastal South』より

「フェンネルとレモンを散らしたクリーミーな蒸しハマグリ」から「あんことニンジンを添えたリコッタのダンプリング」まで、この本の料理は楽しむという精神を呼び覚ましてくれるものばかりで、料理人が時間に追われるときでもそれは変わらない。オタウカは地理的・文化的な複雑さを抱えたこの地方のことを、知らないひとたちにもこれまでにないほど親切に説明をし、こうした伝統が明らかに大切にされていないのならば大事にされるべきであると、私たちに思い出させてくれる。これは南部についての本にも値する本なのである — — オサイ・エンドリン

本文に登場したもののほか、「ショウガのジャムを添えたサクサクバターミルクビスケット」「ビールと柑橘、ローリエで煮込んだ大西洋甘エビ」など、本書『The Saltwater Table』には南部料理のエッセンスのなかに島ならではの美しい食材が活かされたレシピが125種類掲載されています。

『The Saltwater Table: Recipes from the Coastal South』より

サーフ系のcookbookが好きな方には、似たようなフィーリングでお読みいただけるのではないかな。

キューバ料理との違いを探してみるのも面白いかもしれませんね。

以上、この秋のcookbook15冊をご紹介してきました。

秋はcookbookのシーズンということで、Eaterが選んだ以外にもまだまだ優れたcookbookがありますが、それはまた個別のストーリーでおいおい紹介していきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。