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キューバ料理の自由にカンパイ!

Eaterによる夏のおすすめcookbook その2

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
11 min readAug 15, 2018

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年4回のお楽しみ。

フード情報サイト「Eater」に掲載された、この夏に発売されるオススメのcookbookの記事を読んでいます。

昨日はククブクでもう何度もご紹介している、イスラム料理のcookbookが登場しました。

今日はどんなcookbookが登場するでしょうか。

さっそく、ご覧ください。

マデレイン・バスケス・ガルベス&イモジーン・トンダー『Cuba: The Cookbook』(Phaidon)

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ひとをうっとりとさせるがとらえどころがないキューバ島が、アートブック出版社のファイドンによる国を特集した料理本のシリーズに登場した。編集者たちは過去に中国、タイ、メキシコ、そして日本の料理にも挑戦している。

今日の最初のcookbookは、5月にちょっとだけご紹介したキューバ料理のcookbook『Cuba: The Cookbook』でした。

オバマ時代の政策によってその国への旅行制限は緩和されたが、合衆国から近いにもかかわらず、その島との接点がない多くのアメリカ人は本当のキューバ料理というものを知らずにいる。これはキューバ人ライターでソーシャルフードシステムが専門の食品技術者であるマデレイン・バスケス・ガルベスと、現在はキューバに暮らしているアメリカ生まれの文化的コーディネーターのイモジーン・トンダーによる、きわめて重要なガイドブックだ。ふたりは敬意と新しく得た理解をもってアプローチしながら、その島の食事のルーツを深く掘り下げていく。

著者のひとり、イモジーン・トンダー@ブック・ラーダー

キューバの最初のベジタリアンレストラン「エル・バンブー」のディレクターでシェフだったガルベスは、現在知られているキューバ料理のcookbookのほとんどを所有していると言われている。彼女の蔵書は150冊以上におよび、キューバ料理の歴史にまつわる重要な資料として役立っている。『Cuba』のなかには、そうしなければ「失われていた」レシピが保存され、復刻されているのだ。

すでにいちどcookbookになっているレシピでも、そのままにしていてはいずれ忘れ去られてしまうわけで、それを再録するということにもちゃんと意味があるんですね。

『Cuba: The Cookbook』より

しかしガルベスとトンダーは、今日のキューバの家庭で作られる伝統的なレシピも探し出している。本書は全部で350のレシピからなり、ペストリー、トーストといったシンプルな朝食から、煮込みやスープといったメイン料理にまで及ぶ。歴史的な説明もそこここに登場する。「ラボ・デ・レス・エンセンディード」というオックステールのシチューは、大家族が集まったときに食べるあたたかな(しばしスパイシーな)料理で、作るのに高価な材料を必要としない。

ぼくもこのあいだ阿佐ヶ谷にあるハワイ料理店でオックステールのスープを食べて、とても美味しかったのですが、島国とオックステールというのは何か必然的な結びつきがあるのかな?

キューバ風のスパゲッティーはネギと豆苗を混ぜてソテーしたもので、この島への中国の影響が表れている。そして古典的な「バカ・フリータ」は、煮込んで細かく割いた牛肉の料理で、白米や黒豆とともによく提供される。

スペイン語で「バカ」というのは雌牛のこと。

ちなみに「アホ」はニンニクです。

黒は「ムーア」、白は「クリスチャン」と呼ばれている。その名は、8世紀から15世紀までスペインを占領したアラブ人とモサラベたちに由来する。

ムーアはアフリカ北西部出身のイスラム教徒のこと(『オセロー』がそうですね)、モサラベというのはイスラム占領下のイベリア半島に住んでいたキリスト教徒のことです。

白と黒でまったく違った風味が楽しめそう。

海に囲まれた島ではあるが、キューバ料理には想像以上に魚料理が少ない。そのかわり、貿易と政治がキューバの料理を形作っている。スペイン、アフリカ、ロシア、中国といった特筆すべき影響によるものだ。島の生活の写真は『Paladares』や『Taste of Cuba』といった他の本ほど喚起力のあるものではないが、それを喚起する文章の描写によってこの本は肉づけされている。

Paladares』も『A Taste of Cuba』もわりと最近発売されたキューバ料理のcookbookなので、ファイドンのちょっと学術的な感じが苦手というひとは、併せて見てみると良いと思います。

ブルックス・ヘッドリー『Superiority Burger Cookbook: The Vegetarian Hamburger Is Now Delicious』(W. W. Norton & Company)

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シェフ、ブルックス・ヘッドリーのニューヨークのレストラン「スペリオリティー・バーガー」の前には、いつも行列ができている。注文をし、支払いをし、どこに立っていたらいいのか分からず居心地が悪そうに待つ客たちで、レジの近くはいつも混雑している。しまいには、停めた車のあいだにある縁石に座ってハンバーガーを食べだす者もいる。レストランには5席しかなく、入り口の外にある地面すべて — — 階段、棚、植木のプランター — — が事実上のパティオ席になってしまうのだ。

出ました!

先週ご紹介したブルックス・ヘッドリーの『Superiority Burger Cookbook: The Vegetarian Hamburger Is Now Delicious』。

これももう、何度もご紹介しましたね。

イーストヴィレッジの狭い角にあるそんな薄汚い通りで、このラフで行き当たりばったりのシステムはぴったりなように思えるから不思議だ。そのほとんどすべてを考慮に入れても、この店で食べるものには価値がある。とても高く評価されているレストランから名前をとったヘッドリーの2冊目のcookbookも同様だ。

これはいままでお伝えしていませんでしたが、ブルックスの最初のcookbookというのは、2014年に発売された『Brooks Headley’s Fancy Desserts: The Recipes of Del Posto’s James Beard Award Winning Dessert Maker』というデザートのcookbookなんです。

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ニューヨークのデル・ポストというレストランで、ペストリーシェフを務めていた頃の作品で、この本はFood52の最強cookbook決定戦「The Piglet 2015」を制しています。

スペリオリティー・バーガーでは、何種類かのソースと様々なピクルスあるいは生野菜に彩られた(ヴィーガン向けの)パティを販売して成功している。本書の最初のレシピがそのハンバーガーであるというのは適切だ。パティはまったくの単刀直入なもので、テクノロジーやラボ生まれの偽の血などは使われていない。パティにはローストしてソテーした野菜、穀物、そして豆をブレンドしたものが使われていて、アメリカのどんな食料品店の冷凍食品コーナーにもある冷凍ベジーバーガーの、箱に書かれている材料とおそらく同じものだろう。みんなそれが好きなのだ。しかし、常連客はスペリオリティー・バーガーがもっとクオリティアップしたベジーバーガーを提供していることを知っているのだ。

こんなゴージャスなベジタブルバーガー、冷凍食品じゃ食べれないですよ!

ヘッドリーの他のメニューは季節を通じて変化し、魅惑的なサイドやコースのメインを構成する独創的なデンプン質のサラダやスープ、野菜料理であったりする。このcookbookにはそれらの料理や、彼らの皮肉的な影響、行き当たりばったりの起源、そして野菜くずやあまった穀物、加熱した野菜を光輝くものに変えるヘッドリーによるプロの技やコツなどが満載だ。スターアニスとたまり醤油で、フォーのフレーバーがあるジャスミンライスを作ってみてほしい。あるいはフライドチキンのようなサクサク感を目指して、練りゴマで野菜をコーティングしてローストしてみるといい。穀物酢のパウダーをふりかけたサヤインゲンは、ソルト&ビネガー味のポテトチップスのようだ。食料品店で買えるセサミブレッドのスティックは、手早くできるナッツのようなクランブルのトッピングになる。

何度も書いていますが、ハンバーガーのレシピよりもサイドの野菜料理のレシピのほうが充実しているのが、このcookbookの興味深いところです。

友人のひとりが、ヘッドリーのビジネスモデルは、高度にテクニカルなフードシステムを本当に基本的なものにしようと努力するシェフとして要約することができるだろうと指摘した。このcookbookの大部分にも、その感覚が内包されている。

スーパーの冷凍食品コーナーにあるベジーバーガーなんて、生産から出荷、工場での製造、冷凍運送と複雑なフードシステムを経由しなければ手許に届かないわけで、それに比べてブルックスのハンバーガーは、同じものをごくごくシンプルに作って、食べるひとに直接提供してくれるわけです。

そのシンプルさにこそ、ほかに替えがたい素晴らしいものがあるわけですね。

ということで、本日もここまで。

続きを読まれるかたは、下のリンクから先に進んでくださいね。

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。