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春はティキティキ

Eaterによる2019年春のおすすめcookbook その2

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
9 min readMay 1, 2019

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フード情報サイト「Eater」が選定する、この春オススメのcookbook。

今シーズンは合計13冊の新刊が紹介されています。

昨日はククブクで以前にもお伝えした、イスラエルに住むパレスチナ人コミュニティに丁寧に取材をおこなって作られた『Zaitoun: Recipes from the Palestinian Kitchen』をご紹介しました。

cookbookは華やかな部分だけを伝えるものじゃない。

レシピに挙げられた食材やゴージャスな料理写真の裏には、その料理を普段食べているひとたちが住む地域の、社会問題や政治問題が潜んでいるということがよくわかりました。

さて今日は、ベトナム家庭料理のcookbookと、日本人にはあまりなじみのないことば「ティキ」を感じさせるカクテルブックをご紹介したいと思います!

アンドレア・グエン『Vietnamese Food Any Day: Simple Recipes for True, Fresh Flavors』(テン・スピード・プレス、発売中)

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ツンとくる辛さ、甘さ、酸っぱさ、心地よい刺激、ハーブの香り — — これらは塩気のあるたっぷりの魚醤とハーモニーを奏でるベトナム料理のフレーバーの、ほんのいくつかにすぎない。アメリカのホームクックにとってありがたいことに、魚醤やオイスターソースといったかつてはアジア食品店でしか見つからなかったような食材が、いまはあっさりと入手できるようになり、家でベトナム料理を作ることはいままでよりずっと簡単になった。

この本を書いたアンドレア・グエンは、フード雑誌「Lucky Peach」の名テキスト「フォーの歴史」を書いたことで有名なフードライター/編集者です。

アンドレア・グエン

『Vietnamese Food Any Day』のなかで、ジェームズ・ビアード財団賞を受賞しているcookbook作家のアンドレア・グエンは、ベトナムからアメリカに移民としてやってきた母親が自らの料理に採り入れた、レシピやtips、コツなどをシェアしている。

本書に掲載されているレシピのひとつ「シェイキング豆腐」のレシピは、フード&ワインのウェブサイトに載っていましたよ。

レシピはグエンが「スマート」とも「巧みな」とも訳しているベトナム語のことば「ヘオ」を体現したものだ。ヘオな料理の精神においては、この本に揚げたり圧力調理をしたりするような、複雑あるいは時間がかかるプロセスを必要とするレシピは存在しない。そしてグエンはフレーバーを損なうことなく、流れるような料理のプロセスを見せてくれる。グエンがフーコック島で食べた料理にインスパイアされた「グリルド・スラッシュド・チキン」は、刻んだニンニク、タマネギ、砂糖、魚醤に依拠していて、そのシンプルなマリネ液によってこのレシピは平日夜の簡単なディナーの選択肢となっている。

このほかレシピはバインミーや生春巻き、フォーといったベトナム料理の定番から、「ポークリブのハチミツがけ」「鶏手羽のチリ・ガーリック」「元気の出るターメリック・ココナッツライス」「かき混ぜないベトナム・コーヒー・アイスクリーム」まで、80種類以上が掲載されています。

いまファーマーズ・マーケットに並んでいる春の農産物とハーブがあれば、『Vietnamese Food Any Day』は理想的な新しい季節のインスピレーションを与えてくれる。 ホームクックたちの毎日のルーチンのなかに、香りが良くて香辛料の効いた、ピリッと辛いベトナム料理の副菜の世界を探求する勇気を与えてくれるだろう — — ジェイムズ・パク

彼女が書いたフォーだけのcookbook、『The Pho Cookbook: Easy to Adventurous Recipes for Vietnam’s Favorite Soup and Noodles』が気になる方は、こちら↓のストーリーも併せてお読みください。

シャノン・ムスティファー『Tiki: Modern Tropical Cocktails』(リッツォーリ、発売中)

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「ティキ」というのは複雑なものだ。すっかりなじみのあることばでどんなものかがわかる一方で、きちんと定義づけられたり理解されたりはしていない。例えば、「ティキ」と「トロピカル」は完全に一致するものではない。そしてティキ・ドリンクはある島々と関連があり — — ポリネシア文化の魅力にインスパイアされ、カリブ海のフレーバーによって情報が与えられている — — その多くはそのネタ元とはほとんどつながりのないアメリカ人によってどこかで作られているものである。

ティキというのは、もともとはポリネシア神話における人類最初の男性の名前。

これが次第にポリネシアンなもの全般を指す形容詞になり、さらに広がって「色鮮やかな花や鳥たち」「ゆったりと流れる時間のなかのバカンス」「終わらない夏」といったイメージに一般化されて使われているようです。

某所にある「魅惑のチキルーム」の「チキ」がこれです!

ブルックリンにあるカリブ料理レストラン「グレイディーズ」の飲料ディレクターとして、シャノン・ムスティファーは戦後の疑問だらけのまがいもののティキから離れ、その代わりにフレイバー、すなわちラム酒に焦点を当てている新世代のひとりである。

シャノン・ムスティファー

ムスティファーはラム酒やサトウキビ酒のエキスパートとして著名で、『Tiki』は基本の材料 — — ラム酒、砂糖、そしてライム — — についての章から始まる。そしてなじみ深いティキの古典(マイタイ、プランターズ・パンチ、ゾンビ)や、「酸味、ロング・ドリンク、クーラー」「力強く本格的なフレーバーのもの」など、フレーバーによって分けられた追加のカテゴリーへと進んでいく。

そう、この本はラム酒を使ったカクテル「ティキカクテル」のレシピブック。

このティキカクテル、カクテル史のなかでは1940年代から60年代にいちど隆盛を極めたのだそうですよ。

幅広いレシピは、ラム酒をベースにしたドリンクに見られるニュアンスと複雑さに焦点を当てたものばかり。ムスティファーは各レシピのなかに、オススメのスピリッツやトリニダード、ジャマイカ、セントルシア、バルバドス、そしてメキシコの特別なラム酒の情報をちりばめ、レシピの章に続く「スピリッツ」の章では、言及されたほぼすべての酒の歴史と進化が分析されている。

このようにラム酒についての専門知識が豊富なシャノン。

彼女は消費者や卸業者を相手にラム酒の知識や鑑識眼を教えるニューヨークを拠点とする団体「ケイン・クラブ・コレクティヴ」に所属していて、ラム酒の普及のために活動を続けています。

このように情報が豊富で、美しく色鮮やかな写真は言うまでもなく、『Tiki』は実に啓発的なカクテルの入門書となっている。歴史に根ざしている — — あいも変わらず出版社は「エキゾチック」ということばに固執しているが — — にも関わらず、初心者のためにティキに対するフレーバー重視のアプローチをとっていて、あなたの創造力を刺激してくれる入門書だ — — エリー・クルプニック

ラム酒の違いなんて、ダークラムとホワイトラムくらいしかわからないけど、これを機に見聞を深めてみようかな。

といったところで、本日はここまで!

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。