料理は生活のロマンティックないち部分だが
Eaterによる2019年春のおすすめcookbook その1
おかげさまでククブク恒例企画「Piglet実況」が無事終わり、これからしばらくはたまっていたcookbookの新刊情報などをお伝えしていければと思います。
まずは、フード情報サイト「Eater」が春夏秋冬のシーズンごとに取り上げている新刊情報のお話。
これも毎回うかうかしているとすぐ次のシーズンになってしまうんですよね。
2019年春シーズンでは、昨年のように特にテーマごとにまとめられているわけではなく、またレビューなしのタイトルだけを挙げている書籍もなく、淡々と13冊が紹介されている感じになっています。
昨年はこちら↓
どうしちゃったのかと思ってくわしく読んでみると、いつものEater上級編集者ダニエラ・ガラルサの単独記事ではないんですね。
ジェイムズ・パク、エスラ・エロル、エリー・クルプニック、アダム・ムッサの共同執筆記事になっています。
ダニエラは昨年の12月末からEaterに記事を書いていませんね。
何があったんでしょうか。
ともあれ、記事を読んでいきたいと思います。
フードブログ、ピンタレスト、そして命令によってレシピをとうとうとしゃべるスマートスピーカーの世界では、cookbookの存在自体がアナクロニズム(時代錯誤)だと思われるかもしれない。それでもどういうわけか、cookbookは決して実質的価値や有用性を感じさせるだけものではなくあり続けている — — ときに素晴らしいフードフォトのショーケースとして。
とここで元記事では関連cookbookへのリンクが貼られているのですが、「素晴らしいフードフォトのショーケース」として挙げられていたのは、ニック・シャーマの『Season: Big Flavors, Beautiful Food』でした。
自己反省やオタクっぽい偏愛を引き出すものとして。
「自己反省のcookbook」としてリンクが貼られているのは、元『Lucky Peach』編集者クリス・インの編集による『You and I Eat the Same: On the Countless Ways Food and Cooking Connect Us to One Another』。
これ、いつのまにか日本語版『世界は食でつながっている You and I Eat the Same』がKADOKAWAから発売になっていました。
内容紹介を読んでみましょうか。
ノーマのレネ・レゼピ率いるMAD編集。おいしさとは何か?
おいしい食べ物が好き。これは、世界共通の認識だ。似たような料理法が世界各地にあったり、意外な食材でつながる地域があったり。食に関する第一人者たちによるエッセイ集。グルメ&フーディー必読。
人々は、知らずに影響し合っている―食べることで。世界中で見られる「平たいパンで肉を巻く料理」の謎。「アメリカ料理」とは何か?コーヒーがルワンダを救う?世界一のレストラン「ノーマ」のレネ・レゼピほかによる、食のエッセイ集。
ククブクでは昨年6月に金曜ランキングでご紹介しているので、これ以上の内容が知りたければ併せてお読みくださいね。
それにしても『ノーマの発酵ガイド』といい、このところ料理本の出版でKADOKAWAが攻めてますね〜。
そして話を戻して、「オタクっぽい偏愛を引き出すもの」としてEaterで挙げられていたのは、ククブクで2017年にご紹介した、クラウドファンディングで作られた『The Aviary Cocktail Book』でした。
政治活動のためのツールとして。
これはもちろん、ジュリア・ターシェンの『Feed the Resistance: Recipes + Ideas for Getting Involved』
そしてバイラリティのための手段として。
これはSNSなどでレシピを口コミで拡散してもらうためのcookbookということですね。
ククブクでもたくさん取り上げてきてキリがないので、これについては元記事のリンク先を貼っておくにとどめておきます。
いまはこれが主目的なものが多いよなあ。
例示の最後に挙げられているというのも、これが大勢を占めていることを暗に示しています。
純粋なレシピの解説以上の何かを届けることを求められ、今日の最高のcookbookは私たちをこれまで以上に楽しませ、教え、インスピレーションを与え、栄養を与えるものになっている。
今シーズンの新刊たちは、アーロン・フランクリンやジョーダン・マッケイの偏執的な肉の探求ものから、ヤスミン・カーンのパレスチナの台所を垣間見れる作品まで、これらのさまざまな約束を与えてくれるものばかりだ。探求すべき新刊は何百冊もあるけれども、以下の13冊は特別に一見の価値があるものだ。
ということで、今日から何日間かに分けて「春の新作」を見ていきたいと思います!
最後までどうぞお付き合いください。
ヤスミン・カーン『Zaitoun: Recipes from the Palestinian Kitchen』(W.W.ノートン&カンパニー、発売中)
アラビア語でオリーヴを意味する『Zaitoun』には、フムスやシャクシュカといったなじみのある料理のレシピが含まれている。しかし、ヤスミン・カーンの2013年のヒット作『The Saffron Tales: Recipes from the Persian Kitchen』の続編である本書では、すべてがパレスチナ人のレンズを通じた経験になっていて、カーンはイスラエルにあるパレスチナ人コミュニティへと読者をいざなう。パキスタン人の父とイラン人の母のあいだに育ったカーンは、訪問者としての旅をこの本に反映している。
エルサレムではパレスチナ人看護師であるエッサ・グレイブと「ケフテ・ビル・タヒニ(オーブンで焼いたラム肉のミートボールとジャガイモ)」をシェアする。
「ケフテ・ビル・タヒニ」はタヒニソースで作る煮込みハンバーグといった感じ。
まちがいなく美味しいやつです。
彼は料理は「エルサレムの生活のロマンティックな部分。でも私たちの現実を反映しているわけじゃない」と語っている。グレイブは自分たちの文化をシェアしようという情熱を持った個人のひとりであるが、不安定な政治情勢と日々の難題にフラストレーションも抱えている。
アメリカの大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定してから、もう1年が経ちました。
エルサレムに住むパレスチナのひとたちは、不安な日々が続いていることと思います。
こうした個人的なストーリーとパレスチナ料理のシームレスな組み合わせ、そしてクリエイターたちがそれを分かち合おうとする喜びは、『Zaitoun』を単なる料理がたくさん載ったcookbook以上のものにしている。それはパレスチナ料理の真髄と魂に通じる窓であり、読者にその文化とルーツについて深い理解を与えてくれるものなのだ — — ジェイムズ・パク
『Zaitoun: Recipes from the Palestinian Kitchen』については2月にもワシントン・ポスト紙の記事を取り上げていますので、よかったら併せてお読みくださいね。