Photo by Alana Harris on Unsplash

世界の四川はイスラエルに釘付け

Eaterが選ぶ秋のcookbook 2019年版 その7

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
10 min readOct 9, 2019

--

フード情報サイトEaterがピックアップする、この秋の新刊cookbook。

そのなかから2冊ずつをゆるゆると取り上げています。

前回のストーリーでは、ナチュラルワインの最新事情がわかるガイドブックと、ニューヨーク・タイムズ紙のレシピコラムニストによるカジュアル料理のcookbookをご紹介しました。

Nothing Fancy』は、ヒットした前作『Dining In』の路線をちゃんと踏襲しているところがいいですね。

タイムズ紙の顔といえば長らくメリッサ・クラークでしたが、知らぬ間にアリソン・ロマンの時代になっていたんですね。

今作もまたスマッシュヒット作品となるのではないでしょうか。

さて今日は、世界的に人気が続いているイスラエル料理の定番となる可能性を秘めたcookbookと、アメリカでいちばん中国料理を知り尽くしているあのひとの最新刊が登場しますよ。

アディーナ・サスマン『Sababa: Fresh, Sunny Flavors From My Israeli Kitchen』(エイヴァリー、発売中)

Amazonでのお求めはこちら

アディーナ・サスマンは評価されるべき強さを持っている。ざっと挙げてもフード&ワイン誌、テイスト誌、そしてグルメ誌(安らかに眠れ)に書いていたからというだけでなく、彼女は11冊ものcookbookの共著者に名を連ねており、そこにはクリッシー・テイゲンの『Cravings』やその続編『Hungry For More』も含まれる。

cookbook作家でフードライターのアディーナ・サスマンは、2015年にイスラエルに移住し、現在はテルアヴィヴを拠点として活動しています。

本文にもあるように、これまでにクリッシー・テイゲンの『Cravings: Recipes for All the Food You Want to Eat: A Cookbook』や昨年夏に出たその続編、『Cravings: Hungry for More』の共同執筆者として名を連ねています。

『Sababa』では、サスマンはユダヤ人居住区とアラブ人居住区に住んだ経験による100以上のレシピで、私たちの生活にイスラエル料理のワンダーランドを紹介してくれる。本のタイトルがヒントになっているように — — 「サババ」というのはヘブライ語とアラビア語が混じったスラングで、「あらゆるものがすばらしい」という意味 — — 読者はもてなされ、癒されることだろう。

ヘブライ語とアラビア語がミックスした単語「サババ」をタイトルに選んだというのが、このcookbookに込めた彼女の思いをうかがい知ることができます。

アディーナはイスラエル最大の市場であるカルメル市場を歩くのが日課ということで、完熟したイチジクやサクランボ、オリーヴやチーズといった新鮮な食材を使ったレシピが得意のよう。

本書にもそういった料理のレシピが125品目ほど掲載されています。

『Sababa: Fresh, Sunny Flavors From My Israeli Kitchen』より

サスマンはバハラットやザアタルといったスパイスの砕き方から、スフッグやハリッサといったその地方の象徴的な調味料の作り方でこの本を開始している。以降の章ではパンやスープ、サラティム(小皿料理とサラダ)、パスタ、肉料理、魚料理、デザート、そしてカクテルやドリンク、フローズンデザートまで、すべてのものを徹底的にカバーしている。レシピはクラシックなもの(シャワルマ、クーゲル・イェルシャルミ)にひねりを加えたもの(こんにちわ、チューイー・タヒニ・ブロンディー)も混ざっていて楽しめる。

なにやら耳慣れない料理名が混じってますね。

「シャワルマ」はまだわかるとして、

「クーゲル・イェルシャルミ」はキッシュのようなジャガイモのパイで、アシュケナジ系ユダヤ人のあいだでは伝統的に食べられてきたのだそうです。

『Sababa』は、サスマンのテルアヴィヴのキッチンのすぐ外にあるカルメル市場の、にぎわう店々で見つけた食材で彼女が作る料理を美しく反映している。この簡単に挑戦できるレシピを集めた分厚いコレクションがあれば、どんなホームクックでもそういったフレーバーを家庭に取り入れることができるだろう — — エスラ・エロル

『Sababa: Fresh, Sunny Flavors From My Israeli Kitchen』より

タヒニもハリッサもザアタルも手に入れやすくなったことですし、20年代に向けて料理のレパートリーを広げるにはふさわしいcookbookだと思います。

フューシャ・ダンロップ『The Food of Sichuan』(W. W. ノートン&カンパニー、10月15日発売)

Amazonでのお求めはこちら

世間に多大な影響を与えた四川料理についての傑作『Sichuan Cookery』(合衆国では『Land of Plenty』として知られている)の出版から20年近くが経ち、西洋における中国料理の主要な専門家のひとりであるフューシャ・ダンロップが、英語を母国語とする多くの読者たちに初めて四川料理を紹介したその本に再び立ち返る。

そう、この本は2001年にイギリスで出版されたフューシャのデビュー作『Sichuan Cookery』(2003年にはアメリカで『Land of Plenty: A Treasury of Authentic Sichuan Cooking』というタイトルで出版)に、70を超えるレシピを加えてアップデートしたもの。

絶版した名著に最新レシピを加えて新刊として発売するのは、このところのひとつの流れになっている気がします。

彼女のねらいは、料理が大きく変化したここ何十年かをふまえて改訂した 「四川料理の発展を反映させた」アップデートバージョンを作ることだという。英語を母国語とする世界がフレーバーに富んだ辛い料理を求めるようになったのと同じように、四川料理それ自体も変化しているのだ。

フューシャが本場中国で四川料理を学び、「麻婆豆腐」や「魚香茄子」などをイギリスやアメリカに伝えたことは、今までにも何度かククブクのストーリーでお伝えしています。

しかしITの世界がムーアの法則によってこの20年急速に進化してきたように(最近は限界も噂されていますが)、料理の世界というのも日進月歩の世界。

この20年の変化をふまえずには復刊はむずかしいということで、今回最終的に70種類近くの新レシピが追加されたのだと思います。

↑こちらは旧作にも載っている回鍋肉。

英語では「Twice-cooked pork」と言ったりします。

「回鍋」というのが「いちど調理した具材をまた鍋に入れる」という意味だからですね。

『The Food of Sichuan』には200のレシピ — — そのうちの50が新しいレシピ — — とともに、四川の文化史とその料理の基本要素についてのダンロップの網羅的でとっつきやすい文章が掲載されている。詩的かつ実践的なこの本には、どこにでもあるユビキタスな麻婆豆腐からそれより知名度の低い「麻醤鳳尾」(チシャトウのゴマだれかけ)のような料理までのレシピが掲載されていて、初心者にも四川料理の熟練者にも何かを与えてくれるだろう。これは文字通りの傑作だ — — ジェニー・チャン

今回は日本人フォトグラファーのスガワラユキさん(ごめんなさい、漢字のお名前がわかりません)が参加しているということで、昔のcookbookあるあるの「写真がないので料理の完成形がわからない!」からは脱却して、使い勝手のいい書籍に仕上がっていると思いますよ。

以上2冊をご紹介しましたので、今日もここまで。

続きは以下のリンクからお進みください。

--

--

ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。