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料理を理解することはその国を理解することに通じる

中国料理の必携cookbook4選 その2

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
10 min readFeb 14, 2019

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ウェブマガジン「テイクアウト」に掲載されている、「中国料理の必携cookbook4選」という記事を読んでいます。

昨日は手始めに、「中国料理のジュリア・チャイルド」と名高いアイリーン・インフェイ・ロウのベーシックなcookbook『Mastering the Art of Chinese Cooking』をご紹介ました。

記事を書いたケヴィン・パンも、「まず一冊買うならこれ」と太鼓判を押していましたよね。

今日は残りの3冊をみていきたいと思います。

それではどうぞ最後までご覧ください!

フューシャ・ダンロップ『Every Grain of Rice』

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これは毎日の料理に使える、私のお気に入りのcookbookだ。イギリス生まれ、四川省で修行をしたシェフのダンロップは、中国の地方料理を英語で語る権威的な人物。四川、湖南、長江に関する彼女の本は、チャイナタウンの商店でもよく知られていないような食材を、トレジャーハンティングする必要にせまられるかもしれない。

フューシャ・ダンロップといえば、かつて雑誌『Lucky Peach』で鹿のペニスのスープを作る記事を書いて、ジェームズ・ビアード財団賞を獲った人物。

食べ物とはなんなのか、文化の差異を乗り越えるにはどうしたらいいのか、などいろいろと考えさせてくれる良記事なので、興味がある方はぜひ読んでみてください。

まだMediumで読めるんです。

しかしこの『Every Grain of Rice』は違う。初心者レベルのcookbookで、ここに載っている料理は私に祖母が作ってくれた料理を思い出させてくれる。質素で控えめ、軽くて、重たいソースがからんでおらず、片手で足りる食材を使うだけで料理の錬金術をおこなうことができる。

『Every Grain of Rice: Simple Chinese Home Cooking』より

フューシャのcookbookは、以前に紹介した『Land of Fish and Rice: Recipes from the Culinary Heart of China』のように徹底的にマニアックなものから、本書のように家庭で日常的に使えるものまで、きちんと両極端をカバーしている点が素晴らしいと思います。

道を極めた人間だけがなせる技なのではないだろうか。

この本について、私はかつてこうも書いている。

中国の料理のエートスを、これほど正確にとらえたガイドブックもないだろう。中国人がどのようにして肉を日常品としてではなく贅沢なものとして扱うか(この本の料理の2/3がベジタリアン料理である)、食材の切り方がきわめて大事なスキルであること(9つの切り方が紹介されている)、あるいは料理が考えるよりも全然むずかしくないこと(ニンニクの芽とベーコンの炒め物は10分しかかからず、そのふたつの食材と油と塩しか使わない)などが掲載されている。

中国料理を毎日のレパートリーに取り入れたい人にはオススメです。

『Every Grain of Rice: Simple Chinese Home Cooking』より

キャロリン・フィリップス『All Under Heaven』

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514ページあるこの本の形をしたメディシンボールは、料理の手順とともに多くの旅行記も掲載されている。おおざっぱに言えば、中国国内の8つの主要料理について書かれているのだが、完璧主義者はその数は36種類近くあると議論をふっかけてきたりするだろう。この百科事典的な本は、基本的には300のレシピが掲載された料理の『ロンリープラネット』だ。

中国料理を「歴史」や「地理」といった文脈で理解したいひとには、この『All Under Heaven』がオススメです。

中国料理は大きく「北京」「四川」「上海」「広東」の4つに分けられると言われますよね。

多くのひとが、それぞれの特徴もだいたい想像できると思います(四川は辛く、広東はとろみのついた塩味など)。

でもケヴィンは「8つの主要料理」と書いてますから、おそらくそれよりも細分化された、「山東」「四川」「江蘇」「広東」「安徽」「浙江」「福建」「湖南」の八大料理(八大菜系)の分類にしたがってまとめられているのだと思います。

広東料理や四川料理については、すでにどこかからたくさんの情報を仕入れていると思うが、『All Under Heaven』のなかでフィリップスは中国のあらゆる片隅に光を当てている。

著者のキャロリン・フィリップスは、フードライターであり、アーティストでもある人物。

ハフポストやFood52などに文章を寄せているほか、自らのブログ「Madame Huang’s Kitchen」も運営しています。

本書のイラストも自らが手がけ、10年以上法廷通訳の仕事もしていたというから、本当に多才な人物です。

中国北西部、ウイグル民族のイスラム料理、チベット地方のインド風料理、そして小国マカオのポルトガル料理と中国料理の奇妙で素晴らしい統合を見ることもできる。

このほか、ウイグル自治区のイスラム料理なら、アニサ・へロウの『Feast』、

さまざまな文化に影響を受けたマカオ料理のcookbookなら『The Adventures of Fat Rice』もおすすめですよ。

おそらく中国料理初心者のためのもっと使いやすいcookbookはたくさんあるだろうが、『All Under Heaven』ほど私が読むことを楽しみ、学ぶことを楽しんだ本はなかっただろう。

料理写真のないcookbookですが、知的好奇心が旺盛なひとなら、この『All Under Heaven』を楽しく読めるはずです。

フューシャ・ダンロップ『Land of Plenty』

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なんと、またもやフューシャ・ダンロップの著作!

ダンロップは4冊のエントリーのなかで2度目の登場だが、それは中国料理を提唱するうえで、彼女がどれほど重要かということを示しているにすぎない。

この本が最初にイギリスで発売されたのは2001年で、それは英語で書かれたcookbookの世界に突如として現れた原爆だった。それまでダンロップのように四川料理を学術的に扱う専門書はなかったのだ。彼女は四川料理高等専科学校を卒業した初の西洋人。もしあなたが四川料理とは結局スパイスだと思っているのなら、『Land of Plenty』はそれがフランス料理のように洗練された料理だということを明らかにしてくれるだろう(「家庭風煮込み」や「油なし炒め」といった、少なくとも56種類の調理方法があるのだ)。

四川料理というと、日本で近頃ちょっとブームになっている「麻辣(マーラー)」のイメージがありますが、

それだけじゃないのが四川料理の奥深さ。

本書では現地で実際に2年間の修行をし、四川料理の免状を持っているフューシャが、その料理がフランス料理の体系に匹敵するほどの幅広さと、洗練された調理技術を有することを証明してくれます。

もしかすると、ものごとをマスメディアなどで流されるひとつのイメージで一面的に捉えてしまうことの「もったいなさ」も、このcookbookのテーマなのかもしれませんね。

本格的な麻婆豆腐、担々麺、そして宮保鶏丁を探しているひとは、このなかに決定版のレシピがある。しかし私のように、次に四川レストランに行ったときには、よくわからないメニューの説明にあれこれ推測したりしないために、この本を翻訳ガイドとして持っていくのもいいだろう。

まあそういう使い方もありっちゃありですね。

そう言えば、昨日書いた中国の大晦日の料理、フューシャ・ダンロップが訪れた長沙市ではこんな感じだったそうですよ。

やっぱり魚があるんだ!

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。