何をみても何かの肉を思い出す
ニューヨーク・肉料理の名店が秋にcookbookを発売
最近何かとお騒がせなウディ・アレン監督の映画に、『ミッドナイト・イン・パリ』という作品がありますよね。
この映画ではパリを訪れた主人公が過去にタイムスリップ(?)して、アーティストが集まる社交場を訪れるというシーンがあります。
ククブクでも過去にご紹介した、ガートルード・スタインのパリのサロンもそんな社交場のひとつ。
さらに映画のなかにはパリを訪れている作家のスコット・フィッツジェラルドや、アーネスト・ヘミングウェイといった面々も登場するのですが、彼らがニューヨークで贔屓にしていた店が「ベアトリス・イン」。
はい、前置きが長くなりましたが、このベアトリス・インのシェフ、アンジー・マーによる初のcookbookがこの秋に発売されることがわかりました。
フード&ワイン誌のウェブサイト、4月29日付記事から見ていきたいと思います。
2017年、ニューヨークの象徴的な「ベアトリス・イン」のアンジー・マーが、フード&ワインのベストニューシェフ賞に選ばれた。
ベアトリス・インは、1920年代の禁酒法時代にもぐり酒場として誕生し、以来100年近い歴史があるニューヨークのレストラン。
フィッツジェラルドやヘミングウェイが通っていたころはもぐり酒場としての営業でしたが、以来、イタリアンレストランやナイトクラブなど、さまざまに営業形態を変えて今日まで続いてきました。
アンジー・マーは、2016年からこのベアトリス・インのオーナー兼エグゼクティヴシェフを務める人物。
彼女がオーナーになってから、ベアトリス・インは肉料理をメインに提供するレストランになりました。
彼女がフード&ワイン誌のベストニューシェフ賞に選ばれたときの動画が、こちらになります。
彼女はステーキハウス・スペースの草分け的存在で、印象的で有名な肉中心のメニューを提供し、最近では豚肩ロースのミルク煮(ジャスミンライスのスービーズソース、森のキノコの雌鶏、セージとともに)や、160日間ウイスキーで熟成させたトマホーク・リブアイを燻製したバニラとタイム、トリュフのペリゴールソースで提供している。
お店の公式インスタグラムを見てみましょうか。
どれもこれも肉肉しいものばかり。
後光すら射して見えます。
彼女がフード&ワインに語ったところによると、「本当に情熱を傾けられないような食材は料理しないの。私は肉を食べて育った。毎晩6時になると、父がTボーンステーキを食卓に並べたものだった。私はTボーンステーキのことを考えながら目を覚まし、それを考えながら眠りについたものよ」
いまやその情熱は、彼女のデビューcookbook『Butcher + Beast: Mastering the Art of Meat』に注がれている。10月1日の発売に先駆け、その表紙が明らかにされたことに我々はワクワクしている。
はい、こちらがその表紙。
一見すると写真集のような表紙です。
ベアトリス・インと同様、『Butcher + Beast』の食事は季節ごとに構成され、夏のバターミルク・フライドチキン、冬のラヴェンダー・エイジド・ビーフなどが掲載されている。
こちらがそのラヴェンダービーフだそうで、
ラヴェンダービーフというのは、ラヴェンダーの葉に包んで90日間ドライエイジングした牛肉なんだそうです。
日本でもドライエイジングの技法はだいぶ浸透してきましたが、フレーバーを加えるというアイディアはまだ見かけたことがないので、ナッティーな熟成香とどんな風に合うのか、ぜひ食べてみたいです。
そして主として肉 — — 実際のところ「想像可能なあらゆる肉料理」 — — のレシピからなるいっぽうで、読者はカクテルや甲殻類料理、パスタ生地やフライ用の衣の作り方、「骨髄とバーボンのクリームブリュレ」といったデザートの作り方も学ぶことができる。
マーの関係者によると全部で80種類のレシピが掲載され、家族の逸話やtips、自宅に食糧貯蔵庫を作るためのガイドまで載っていて、きっと欲しくなること請け合いだ。
「この本を書き始めたとき、自分の本棚に置いてあるcookbookをパラパラめくって、『Butcher + Beast』をどういう本にしたいのかとアイディアを練ったの」とマーは語る。「私の書庫にある本は、みんな素晴らしいものばかりだと実感した。でも私たちの業界のむき出しの姿を、実際の絵として描いているものはなかった。私は読者に対しても自分たちに対しても弁解する余地のない、とんでもなく正直なものを作りたいと思ったの」
このことは、ニューヨーク・タイムズ紙のレストラン記者ピート・ウェルズが、「あなたが動物としての自分を祝いたいときに行くべきレストラン」として、ベアトリス・インに二つ星の評価を与えていることとも関係していると思います。
アーティストが正直であることと、オーディエンスが動物であることの共犯関係によって、ひとつの場が成り立っているんですね。
マーにとって『Butcher + Beast』は単なるcookbookではない。それはベアトリス・インの物語でもあり、彼女がスタッフたちとともに歩んできた旅 — — 「善良さ、醜さ、ガッツ、情熱、創造性、そしてライフスタイル」 — — の物語でもある。彼女はそのアートワークにとりわけ興奮しているという。フォトグラファーとしてクレジットされているジョニー・ミラーの、レストラン業界の表現のしかたに。
写真を担当したジョニー・ミラーは、過去にアシーナ・カルデロンの『Cook Beautiful』やアレックス・ガーナシェリの『The Home Cook: Recipes to Know by Heart』といったcookbookの写真も手がけています。
お気に入りのレシピは? 彼女は決められないと語るが、それが料理にとって大切なことだという。選ばなくていい、ということが。
「ただのレシピ集以上のものなの」と彼女は語る。「私たちはおもてなしや、毎晩のディナーの料理を通じていつもストーリーを語っている。そしてこの本のページを通じてそれらのストーリーを伝えられるということは、とてもワクワクすること。私たちみんながこのレストランの歴史の一章なの」
cookbookはレシピ集以上のもの、というのは誰もが語ることですが、「決めなくていい」ということが料理にとって大事なこと、というのはなかなか斬新な発想だと思います。
続編となるcookbookを書く計画はいまのところない、とマーは語るが、善かれ悪しかれ書くというプロセスのことは大好きになったそうで、これで最後にするつもりはないと言う。私たちが『Butcher + Beast』の発売を待つあいだも、この春発売になったばかりのcookbookはたくさんある。エンリケ・オルベラの『Tu Casa Mi Casa: Mexican Recipes for the Home Cook』、アミラー・ケイスンの『The Power of Sprinkles: A Cake Book by the Founder of Flour Shop』などだ。たくさん買い込んで、秋までに読むものをしっかり確保しておこう。
急に広告記事みたいになりましたが、エンリケ・オルベラ『Tu Casa Mi Casa』は5月にこのククブクでもご紹介しましたね。
もう一方の『The Power of Sprinkles』は、また機会があったらご紹介します。
ともあれ、ぼくは断然このアンジー・マーのcookbook『Butcher + Beast』が気になってきましたよ。
ニューヨークのシェフ、アンジー・マーによる『Butcher + Beast: Mastering the Art of Meat』は、今年の秋、10月1日にクラークソン・ポッター社から発売。
また発売が近づいて詳しい内容がわかってきたら、続報をお知らせしますね。