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ちゃんと流行りで、確実に実行可能だよ

Eaterが選ぶ秋のcookbook 2019年版 その6

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
13 min readOct 7, 2019

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この秋に発売のcookbookを、フード情報サイトEaterがおすすめする9月3日付の記事を読んでいってます。

前回のストーリーでは、ニューヨークにアトリエ兼ショップを構える「スパイスの達人」によるスパイスcookbookと、フーディーなラッパー・クエストラヴがオーガナイズしたミックステープcookbookをご紹介しました。

Netflixで『グレート・ハック:SNS史上最悪のスキャンダル』を観てからというもの、ぼくたちはネットから「自分が見たいものだけを見せられている」ことに気づきました。

これって完全なる視野狭窄。

だからこそ、料理とともに意見も持ち寄るポトラックが大事になってくるんだと思います。

今日は日本でも人気のナチュラルワインの最新のガイドブックと、2017年にスマッシュヒットcookbookを出したアリソン・ロマンの続編をご紹介したいと思います!

アリス・ファイアリング『Natural Wine for the People: What It Is, Where to Find It, How to Love It』(テン・スピード・プレス、発売中)

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ナチュラルワインはアメリカ産ワインリストにおいて現在明らかに勢いがあるが、ジャンル全体的としてはその生産者、インポーター、販売者、そして飲んでいる人たちによって議論され続けている。何がワインを「ナチュラル」にするのか? ビオディナミックワインとはどう違うのか? ナチュラルワインに亜硫酸塩は含まれるのか? オーガニックであることはどのように作用するのか?

確かに「オーガニック」とか「ビオディナミ」とか似たようにかぶさってくる形容詞が多くて、ナチュラルワインがどういうものかを正確に答えられるひとって少ないかもしれませんね。

『Natural Wine for the People: What It Is, Where to Find It, How to Love It』より

フランス版のウィキペディアによると、ヴァン・ナチュール(=ナチュラルワイン)というのは、

醸造の際になんの添加物も入れられていないワイン(例外的に微量の硫黄が添加されるときがある)

だそうですが、正確に定義する法律などはフランスにもないのだとか。

ちなみに「オーガニック」というのは農薬を使わない、有機栽培農法で育てたブドウを使っているワインで、「ビオディナミ」というのはルドルフ・シュタイナーの提唱する「バイオダイナミック農法」によって育てたブドウを使っているワインのこと。

月の満ち欠けの周期に従って育てたブドウを使っているのがビオディナミです。

これらの大量の質問に答えるのに、アリス・ファイアリングほどふさわしいライターはいないだろう。彼女はワインについて7冊の本を書いており、何十年もかけて積み上げたワインの知識を、味わってみたいというひとたちのためにまとめ上げることに自分のキャリアを捧げてきた人物だ。

著者のアリス・ファイアリングは、これまでに『For the Love of Wine: My Odyssey Through the World’s Most Ancient Wine Culture』(2016年)や『The Dirty Guide to Wine: Following Flavor from Ground to Glass』(2017年)を上梓しているワインジャーナリスト。

2013年にはお酒のカルチャー雑誌「インバイブ」のワインパーソン・オブ・ザ・イヤーに選出されています。

アリス・ファイアリング

どうしてナチュラルワインを飲むべきなのかについての講釈は — — 高度に加工され添加物を多く含んだワインは避けるべきだというのは、確かにひとつの理由ではあるのだが — — ほとんどなく、より教育的なことを中心にした『Natural Wine for the People』は3つのパートに分けることができる。「ナチュラルワインとは何か」「味わいと評価のためのヒント」、そして「これらのワインを探しているひとのための、お気に入りの生産者、輸入者、ワインフェア、国内ワイン販売店のリスト」だ。

本書はナチュラルワインは「クソ、クズが入ってないワイン」と定義づけたうえで、

『Natural Wine for the People: What It Is, Where to Find It, How to Love It』より

ナチュラルワイン年表を用いてこれまでの発展を解説。

『Natural Wine for the People: What It Is, Where to Find It, How to Love It』より

「レジェンド」と呼ばれる造り手のリストや

『Natural Wine for the People: What It Is, Where to Find It, How to Love It』より

ナチュラルワインのセラーの作り方などが掲載されています。

『Natural Wine for the People: What It Is, Where to Find It, How to Love It』より

旅に出て、ナチュラルワインを作っているワイナリーを訪ねたいひとには? ファイアリングはそれについてのtipsも用意している。「農場から食卓まで」がレストランのスタイルのひとつとなったように、ナチュラルワインもここ数年内には「ナチュラル」とは呼ばれなくなり、ただ単に「ワイン」と呼ばれるようになる、とこの本の著者は自信をもって語っている。それまでのあいだは、この本こそが私たちを導いてくれる完全なガイドになってくれるだろう — — パティ・ディエス

こちらの『オーシャンズ』のWeb記事で、「普通のワインはおでこからビームのようなものがまっすぐに出てくる」「ナチュラルワインの場合は頭がほんわか包み込まれるような酔い方」とありますが、

確かに非ナチュラルワインを飲んだときって、おでこから何か出てくるなぁ。

非常にわかりやすい表現だと思いました。

アリソン・ロマン『Nothing Fancy: Unfussy Food for Having People Over』(クラークソン・ポッター、10月22日発売)

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このまとめ記事を読んでいるあなたなら、スマッシュヒットを飛ばしたアリソン・ロマンのデビューcookbook『Dining In』やニューヨーク・タイムズ紙に載った彼女のレシピ、ボナペティ誌のコラムや過去のレシピ、彼女のインスタグラムアカウントなどはご存知だろう。もしそのどれにもピンとこないというのであれば、ロマンのことを自分のやりたいように料理する人物と理解すればいい。すなわち「これはありあわせの物で作ったんだ」とか「美味しくなるようにいろいろ入れてみたんだ」とか言う人物だ。

表紙のグラフィックを見たら、ああ、あのcookbookの続編なんだなってわかるひともいると思います。

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前作『Dining In: Highly Cookable Recipes: A Cookbook』は、ククブクでは2017年8月に第一報をお知らせしました。

まさかここまでヒットを飛ばすとは、ぼくも予想していなかった。

ロマンの最新刊はみんながひとをもてなす料理を作れることを念頭に、レシピとtipsを集めたものだが、彼女自身は当然ながらそういう言い方は堅苦しいと書いている。私がひとをもてなしすときに求める料理は、多くの人びとがもそうだと思うが、自分が作った料理で人びとに気持ちよくなってもらえるようなものだ。理想通りに楽しんでもらい、感動してもらい、それでいて取り回しがしやすい料理。そのため、ロマン以外にアドバイスを聞きたいと思うひとはいないのだ。

とEaterの記者が書いているように、本書『Nothing Fancy』は高級食材(そうだ! fancyというのは日本ではメルヘンチックな意味にとられることが多いですが、アメリカ英語では断然「高級」という意味で使われることが多いので、要注意です)を使わないで、ゲストを喜ばせるためのレシピが150種類以上掲載されています。

『Nothing Fancy: Unfussy Food for Having People Over』より

奇しくもニューヨークでは、フォアグラの販売が禁止されようとしているいま。

倫理的ではない高級食材より、人間が自分の知恵と工夫で(もともとはフォアグラもそうだったんでしょうけど)食を楽しみ、おもてなしするという潮流はこれからさらに大きなうねりとなっていきそうです。

ロマンがそのおしゃべり口調の前書きでひとたび説明してくれれば、魚をまるごとグリルしたり、ラムの足肉を出したりすることはもはや恐ろしいものではなくなる。彼女がDIYで作ったマティーニ・バーは、絶対に自分でも作ってみようと思っている。

『Nothing Fancy: Unfussy Food for Having People Over』より

そういえば先日、映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を見た影響で某レストランでマルガリータを頼んだら、スタッフの若い女性が「マルガリータ、超ムズイ」と言ってるのがホールまでまる聞こえで、これは期待できないな……と思って飲んだら……超オイシイかったのが印象に残っています😁

やればできる!

『Nothing Fancy』のレシピはトレンドに即しているが慎ましやかなもので、まるでお気に入りの小皿料理店やナチュラルワインバーで見かけるメニューに載っているもののよう。

具体例を挙げると、「トマトの盛り合わせ」「チキンとひよこ豆のココナッツ煮込み」「ターメリックティーのケーキ レモン風味」など、ビストロ系のレシピが充実しているよう。

最近のアメリカのミレニアル世代はビールやウイスキーよりもナチュラルワインを好むのだそうで、レシピもそれに合わせたものに絞られている感じです。

そしてすべてのなかで最も大事なことは、ロマンのおもてなしの態度だ。計画が失敗してもそれをしっかりと受け止めたり、挑戦することはいやいややってストレスを感じるよりも楽しいといった教えは、私たちみなが真似することができる。『Nothing Fancy』は私たちみんながディナーパーティーに望んでいるものを届けてくれるだろう。ちゃんと流行りの、それでいて確実に実現可能なものを — — ヒラリー・ディスクラー・キャナヴァン

「ちゃんと流行りで、確実に実行可能なものを」

これ、料理のレシピだけでなくいろんな場面で応用したいことばだと思いました。

以上2冊をご紹介しましたので、今日もここまで。

続きは以下のリンクからお進みください。

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。