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知っているものは怖くない

国じゃない国の料理に光をあてるcookbook その3

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
8 min readFeb 21, 2019

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2月4日付けのワシントン・ポスト紙、フード欄。

パレスチナ料理に光を当てたcookbookを紹介していく記事を、3日間に分けて読んでいます。

2日目の昨日は、2017年に出版されたリーム・カシスの著書『The Palestinian Table』が登場し、ヤスミン・カーンの『Zaitoun: Recipes and Stories from the Palestinian Kitchen』とのコンセプトの違いなどが述べられました。

世間でイスラエル料理として認知されているものが、本当はパレスチナ料理だということを「正したい」気持ちと、パレスチナで食べたものならチョコレートケーキであってもパレスチナでの経験なのだという「正す必要はない」という主張。

『Zaitoun: Recipes from the Palestinian Kitchen』より

一見矛盾するふたつの主張が、実はどちらも大切なのではないかということを考えさせられる第2回でした。

最終日の今日は、今年の春にパレスチナ料理のcookbookの発売を予定しているサミ・タミミが登場します。

最後までどうぞお付き合いください。

タミミとタラ・ウィグリーの共著である『Falastin』は、違いを明確にすることを約束し、伝統を重んじながらも、忙しい西欧人が料理できるようにレシピを強化している。したがってオールスパイスやクミン、大量のオリーブオイル、穀物、ヨーグルト、ディルとレモンを加えた肉料理などが期待できる一方、パレスチナの食卓でよく見かける野菜の肉詰めなどは少なくなるようだ。

ネット上を探してみましたが、この『Falastin』についてはまだ何も情報がないようです。

同名のパレスチナの新聞が見つかるだけ。

詳細はもうちょっと待たないとダメみたいですね。

「いそがしいホームクックにとって、それらを現実的に有用に作るとなると、ちょっと時間がかかりすぎるんです」とタミミは語る。

これらの本は、より大きな理解を生み出すことを目的にしている。『Zaitoun』とは、結局のところアラビア語で「オリーブ」のことであり、それはパレスチナではどこでも見られる食材である。そして国際的な平和のシンボルでもある。

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ノアの方舟で有名な大洪水のあとに、陸に放った鳩がオリーブの枝をくわえて戻ってきたことから、オリーブと鳩は平和の象徴になったんですよね。

『Zaitoun: Recipes from the Palestinian Kitchen』より

しかし、これらの本がイスラエルとパレスチナの緊張関係を前にして、新たな食の運動を切り開くことができるだろうか? 文化的盗用の問題が、フード業界を席巻している。

ファッション業界同様に「文化の盗用」が指摘されがちなフード業界。

これについては、ライターのケナン・マリクがガーディアン紙のコラムで「文化とは永遠に衝突し、借用され、作り直されるものだ」と言っていたのを思い出します。

アフリカ系アメリカ人の料理人たちが、南部料理で充分に功績を認められているかどうかというのは、学者たちも疑問を呈している。

ここにきて、エドナ・ルイスの貢献はだいぶ認められてきつつありますが。

今月2月は、アメリカ合衆国における「黒人歴史月間」です。

2017年、Yelperがふたりの白人女性が経営するブリトー屋台の客たちを非難した。

これ、ちょっとどういうことなのか調べてみたのですが、ポートランドでブリトー屋台を経営していた白人女性が、どうやってブリトー作りを学んだのかという新聞記者の問いに対し、「スペインに史上最悪の破壊をされた町で、最高のトルティーヤ・レディを探しました。彼女たちはテクニックをあまり教えてくれなかったので、台所の窓から覗いたんです」などと発言したのがそのまま記事に掲載されて、炎上したようです。

ブリトー屋台は2週間で閉店したらしいですが、料理という文化的財産を盗む行為には、これほどの厳しい目が今は向けられるということは、忘れてはならないと思います。

それでイスラエルとパレスチナのあいだに線が引かれたとき、議論がわき起こる運命にあったのだと、2008年に「ザハヴ」をオープンし、イスラエル料理が主流となった最前線に立っているマイケル・ソロモノフは、最新の著書『Israeli Soul』のなかで言う。

「もしパレスチナ料理を認められないのであれば、イスラエル料理を認めることもできないはずだ。しかし実際のところ、イスラエル料理というのは、単にパレスチナ人から盗用したアラブ料理でもないんです」と彼は言う。「こうした『これは自分たちのもの』とか『あれは自分たちのもの』には、すべて危険がひそんでいます。それは食べ物なんです。食べ物を問題にしていて、誰かが何かを所有していることってあるんでしょうか? 文化的盗用の限界ってどこにあるんでしょうか?」

すべての文化は模倣から発展するもので、そのこと自体は問題ないと思うんです。

ただ、その文化を自分たちのものとして実践しているひとたちから無許可で盗んだり、借用した側が自分たちが元祖だと言って嘘をついたりすることは問題。

模倣する側は「リスペクトの心」を、模倣される側は「寛容の心」を忘れないことだと思います。

そして『Israeli Soul』のマイケル・ソロモノフについては、ククブクの過去のストーリーも併せてご覧ください。

それでもソロモノフは、共有されたイスラエルとパレスチナの歴史と伝統が、人びとをひとつにすることを期待している。結局のところ、それはたまたま彼にとって個人的なことだっただけなのだ。『The Palestinian Table』を出した後、カシスはソロモノフとコンタクトを取った。いまでは彼女は彼の親友のひとりだ(「私たちがディナーをともにしたとき、子どもたちは彼女の料理ばっかり食べたがったんだ」と彼はジョークを言う)。

「これは私たちの物語を世界中で共有する手段なんです」とカシスは付言する。「人びとにパレスチナ人を人間として、母親たちとして、料理人として知らしめることを助けてくれるんです。単に戦争のさなかにいる人びととしてではなく。もしそのなかの誰かを知っていれば、少なくとも彼らのことを怖がったりはしないでしょう」

リーム・カシスとマイケル・ソロモノフの出会い。

あるいは、ヨタム・オットレンギとサミ・タミミの出会い。

結局ひととの出会いの積み重ねが、こうしたいがみ合いをなくすための小さな一歩になるんでしょうね。

狭いところに閉じこもってないで、自分とは違うものにたくさん出会いたいものです。

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。