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料理本で遠くへ旅に出よう!

サンフランシスコの書店主が語る必読のcookbook #2

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
10 min readJul 21, 2018

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新刊と古書の両方を扱っているサンフランシスコのcookbook書店「オムニヴォア・ブックス・オン・フード」。

その店主であるセリア・サックが、サヴール誌のインタヴューに答えてcookbookのオススメを紹介するという記事を読んでいるのでした。

おとといは最近発売になったアフリカ料理のcookbookを中心に、料理本が読者の世界を広げてくれる可能性などについて語ってくれましたね。

今日はその続き。

比較的昔からあったcookbookをもとに、今後のcookbookのあるべき姿を探ります。

とはいえサックの好きな作品の多くは、何十年とは言わないまでも何年も前から入手が可能なものだ。すべての料理愛好家が読むべき本はどれかと問われて、彼女はビル・ビュフォードの『Heat』をまず挙げた。「これは素晴らしい著作で、アンチ=アンソニー・ボーデイン本とも言うべき本なんです。『俺は彼女とウォークインクローゼットでファックした』ではなく、『興奮が高まることによって機が熟したとき、どのように聞こえるものかを私は学んだ』といった感じなんです」

ビル・ビュフォードはイギリスの文芸誌『グランタ』の元編集長で、現在は作家として活動している人物。

その著作『Heat: An Amateur’s Adventures as Kitchen Slave, Line Cook, Pasta-maker and Apprentice to a Butcher in Tuscany』は、ビルが実際に体験した料理業界の裏側を描いた作品。

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彼はニューヨーカー誌の依頼で、ニューヨークの3つ星イタリアンシェフ、マリオ・バターリの厨房に潜入したんですね。

その形式ゆえ、『キッチン・コンフィデンシャル』とはよく比較されるのですが、セリアの指摘によると「ハードボイルド」と「耽美派」くらい文体が違うみたいですね。

ちなみに元記事は2017年8月の記事なので、当然まだマリオ・バターリはセクハラで告訴されていませんし、アンソニー・ボーデインは亡くなっていません。

サックはボローニャやパリで自分を発見するストーリーにはもう飽き飽きだが、ジュリア・チャイルドの『My Life in France』はオススメしないわけにはいかないと言う。「これはラブストーリーであり、旅の物語であり、たとえ2、3年とはいえ違う国に移り住むことで、どれほどのものが得られるのかということを教えてくれます。そしてそれがどれだけ人生を変え、ものの見方を変えてくれるのかを」

夫とともにフランスに渡ることで、料理への情熱と才能を開花させていった元CIA職員のジュリア。

本書『My Life in France』は、その人生の転機となったフランス生活の様子がわかるエッセイです。

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同内容を映像で知りたい方にはメリル・ストリープの映画『ジュリー&ジュリア』がオススメです。

「とはいえ、もっと遠くへ連れていってくれる本も待ち望んでいます」フューシャ・ダンロップの『Shark’s Fin and Sichuan Pepper』がどれほど自分の目を開かせてくれたかに言及しながら、彼女はそう述べる。「これは、単に権威のある四川料理の学校で料理を学んだという本ではないんです。四川省のひとたちが愛するフレーバーと、何よりも重要な料理の食感を人生にもたらしてくれるんです」

中国の四川料理専門学校を卒業し、アメリカにおける中国料理の文化的権威とも言えるフューシャ・ダンロップ。

ジュリアがフランスなら、本書『Shark’s Fin and Sichuan Pepper』は(アメリカから見て)もっと遠い中国・四川の滞在記。

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犬、ジャコウネコ、サソリ、ウサギの頭など、提供されたものは全部食べると宣言して生活した経験が、のちの「ちんちんスープ」へとつながっているんですね😁

サックはパールシー料理を讃える『My Bombay Kitchen』に書かれたレシピについても熱心に語る。その本は、イスラム教徒によるペルシャ征服から逃れたゾロアスター教徒の歴史を深く掘り下げるものであり、彼らの食事がペルシャ料理とインド料理の伝統にどんな影響をもたらしたかを描いている。「自分がおこなっていることにはどんな理由があるのかをレシピが教えてくれて、本当に好きなんです」と彼女は言う。

My Bombay Kitchen: Traditional and Modern Parsi Home Cooking』は、2007年出版のニルーファー・イカポリア・キングによるcookbook。

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「パールシー料理」というのは、ゾロアスター教を信仰する教徒・パールシーによる料理のことで、インドではムンバイ(旧名ボンベイ)などで食べることができます。

本書にはそんなパールシー料理のレシピが165種類掲載されていて、火を崇める宗教とそこから生まれた料理との関係が大変よくわかるものとなっています。

サックはまた辻静雄の『Japanese Cooking: A Simple Art』もよくオススメする。「魚のさばき方やどの部分をどう下ごしらえするのか、素晴らしい図表を使って教えてくれるんです」しかしもっと大事なところは、注意深く料理するという思考法をこの本が身につけさせてくれる点だという。「この本は、午後6時までに食卓に料理を並べられるように、何か基本的なものを手早く作るというものではないんです。それは日本料理の美にどれほど自分を献身させるかという本なんです。これらのシンプルな食事には派手な装飾はなく、多くのものを加えず、それでも正しく調理するために、自分がなすべきことをすべてちゃんと計画して考えなくてはならないんです」

日本にフランス料理を紹介した功績者として著名な辻静雄さんによる、日本料理を世界に紹介する本がこの『Japanese Cooking: A Simple Art』。

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料理には思想があり、調理技術には理由がある。

日本がすごい!のではなく、ジャンルを問わず、多くのシェフがなんとなく肌で感じていたことをちゃんとことばで説明したという点が、辻静雄さんという人物の「すごい」ところなんでしょうね。

サックはポーラ・ウルファートの『The Food of Morocco』やダイアナ・ケネディの『From My Mexican Kitchen』、そしてシェイン・ミッチェルの『Far Afield』について息急き切って話すが、

再販されたあかつきには、エドナ・ルイスの『The Taste of Country Cooking』は誰もがかならず読むべき本だという。それは南部料理への敬意、アフリカ系アメリカ人の料理への敬意、そして季節に合わせたアメリカの地方料理すべてに対する敬意を呼び覚ましてくれた本なのだ。

やはりこの時代、評価されるべくして評価されているのはエドナ・ルイスなんですね。

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「史上最高のホームクック100人」でもトリを飾ったのは、このエドナでした。

必読の理由ですが、セリアは次のように述べています。

「これは昔の本ですが、新世界を切り開いたとても重要な本なんです」とサックは言う。「ルイスは南部料理がフライドチキンだけではない、太る原因となる料理だけではないんだと私たちに教えてくれました。新鮮な果実やピクルスにした野菜、オクラや豆やトウモロコシ、サツマイモや柿といったフレーバーが急増している原因はここにあります。読者は春に野生のキノコや庭のイチゴ、夏にはスパイシーなベイクドトマトや新鮮なブラックベリーのコブラー、豚をつぶす季節には焼いたカントリーハムやソーセージの味を知ることができる。南部料理が旬を味わう料理であり、土地や空、海に重きをおいたもので、単調でステレオタイプの「ソウルフード」ではないことを人びとは理解し始めるはずです」

いわば時間と空間まで味わうのが、 南部料理ってことなのかな。

真のソウルフードがどういうものか知りたいという方は、ククブクのこちらのストーリーもぜひお読みくださいね。

以上、2日間にわたってサンフランシスコの料理書店員セリア・サックのオススメ本をご紹介してきました。

あなたの世界を広げてくれそうなcookbookには出会えましたか?

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。