Evan Kirby

人間が料理を失わないために

「塩」「脂肪」「酸味」「加熱」を覚えればなんとかなる

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
4 min readApr 13, 2017

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ぼくがcookbookの勉強を始めたばかりのころ、マイケル・ポーランの『人間は料理をする』を読んだ。

この本は、人間がほかの動物たちとは違って高度に文明を発達させたのは、料理をするようになったからだという仮説のもと、著者のマイケルが「火」「水」「空気」「土」という四元素をテーマに料理修行をしながら、料理をしなくなった現代人は文明の危機をむかえているのではないか?と思索を深めていくという内容。

「人々は料理をする時間を減らすいっぽうで、料理番組を観るのに長い時間を費やしている」「料理とは消化のアウトソーシング」「食料を焼く火を囲むうちに、人間は社会性を身につけた」「体のなかにいる細菌の細胞の数は、自分の体細胞の数の10倍」などの指摘により、ぼくはそれまでの価値観をくつがえされる衝撃を受けたので、みなさんももし書店で見かけたら、序論だけでも読んでみてください。

この『人間は料理をする』のなかでマイケルは、「火」ではバーベキューを、「水」では煮込み料理を、「空気」では天然酵母パン、「土」では発酵食品をそれぞれ師匠について学んでいくのだけど、「水」の章でマイケルを指南したのが、サミン・ノスラットという女性。

NETFLIX版の『COOKED 人間は料理をする』にも登場していますね。

そのサミンが、まもなく発売するcookbookが『Salt, Fat, Acid, Heat: Mastering the Elements of Good Cooking』だ。

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サミン・ノスラットは、1979年生まれの料理人。

イラン系アメリカ人の両親のもとに生まれた彼女は、母親の作るペルシア料理のランチボックスを楽しみにしながら幼少期を過ごし(ふつうは、移民の子どもは母親が故国の料理をランチボックスにつめるのを恥ずかしがるものなのだ)、大学時代にボーイフレンドと小銭貯金をして、シェ・パニースの料理と運命的な出会いを果たす。

シェパニのサービスに感動した彼女は、すぐさま支配人に長い手紙を書き、テーブル係からキャリアをスタート。

シェパニではシェフ見習いまで経験をしたのち、イタリアのトスカーナに2年間留学をして生パスタなどの「おばあちゃんの料理」を学んだ。

帰国後は、地域コミュニティの創造や、文化や社会、環境に対する意識の向上をめざして、料理とことばを武器に料理教室や文筆業で精力的な活動を続けている。

『Salt, Fat, Acid, Heat』は、彼女にとって初めての本格的なcookbookで、「塩」「脂肪」「酸味」「加熱」という料理にとっての四大要素をもとに本書を構成しているというのは、ジャーナリズムの師匠であるマイケル・ポーランに対する彼女なりの挑戦なのかもしれない。

『マギー キッチンサイエンス』『Cooking for Geeks』のように、料理への科学的なアプローチがきわだっているのだけど、この本はあくまでレシピ本というスタンス。

ペルシア料理をほうふつとさせる米料理や、シェパニ時代のロースト野菜、イタリア仕込みのパスタや煮込み料理など、彼女がいままでに会得してきたものを全部投入したような、100種類以上の「使える」レシピが掲載されているのが新しいし、うれしい。

ウンチク臭がなくどこか軽快なイメージなのは、このcookbookのビジュアルのすべてを占めている、ウェンディー・マクノートンの都会的なイラストの力が大きい。

サミンの料理哲学と、料理の新・四元素が学べる『Salt, Fat, Acid, Heat』は、ニューヨークの出版社サイモン&シュスターから、4月25日の発売となっている。

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。