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世界のおいしいものは月と星の下にある

『Istanbul and Beyond』はトルコ料理の決定版だ

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
7 min readJan 31, 2018

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突然ですが、世界三大料理を3つとも言えますか?

「和食」と「フレンチ」、そして「中華」でしょうというあなた。

それは料理の鉄人だろっ!

諸説ありますが、一般的には世界三大料理は「フランス料理」「中国料理」、そして「トルコ料理」とされているんです。

今日は、そんな世界三大料理にも挙げられるトルコ料理のcookbookをご紹介したいと思います。

とりあげるのは、こちら。

昨年の大晦日のストーリーで、くわしくご紹介することをお約束しましたよね。

トルコ料理の決定版的cookbook、『Istanbul and Beyond: Exploring the Diverse Cuisines of Turkey』です。

まず、トルコ料理がどうしてフランス料理や中国料理と並び称されるのか?

それは、地理的要因と歴史的要因に分けられると思います。

地理的要因としては、トルコがヨーロッパとアジアとのちょうど中間地点にあるということ。

古くから交易の中心地であったトルコは物資が豊かで、それにしたがって海のものや山のもの、ヨーロッパ原産のものからアジアの砂漠地帯のものなど、多様な素材を使った料理の伝統が培われました。

そしてもうひとつの歴史的要因ですが、これは東ローマ帝国やオスマン帝国があったことで、宮廷文化が栄え、各国から集まった料理人たちが貴族たちの味覚を満足させるべく、研鑽しあったというのがあげられるでしょう。

ところが意外なことに、これだけたくさんのcookbookが出版されている状況のなか、英語によって書かれたトルコ料理のcookbookというのはあまりなかったんですね。

本書『Istanbul and Beyond』のいちばんの特徴を挙げるとするなら、この点、つまり、「英語で書かれたトルコ料理のcookbookの決定版だ」ということが言えるでしょう。

本書の作者であるロビン・エックハルトは、イタリア在住のフードジャーナリスト。

2014年にサヴール誌のブログアワードで、ベスト・カリナリー・トラベルブログ賞を受賞したブログ「イーティング・アジア」の管理人でもある彼女は、これまでにサヴール誌、ニューヨーク・タイムズ紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙、フード&ワイン誌などに寄稿をしています。

cookbookの出版は、本書が初となります。

そして本書でロビンとコンビを組んでいるのが、夫であり、フォトグラファーである、デイヴィッド・ハガーマン。

ふたりは1990年以来、およそ20年にわたりトルコ国内を旅してきました。

トルコの首都である古都イスタンブールから、日本の国土の2倍の広さと言われているトルコの隅々まで、総行程距離は2万4000キロ以上に達するのだそうです。

旅の目的は、トルコに全土に散らばっているの最高の料理を見つけること。

その旅のあいだで出会った田舎の主婦たちや地元のパン屋さん、カフェの店主、農家、漁師、などからレシピの聞き取り調査をおこない、この英語圏初となる広大なトルコ料理のレシピコレクションを作り上げたんです。

掲載されているレシピは、ケバブやドルマなど、ぼくたちでも知っているようなメジャーなものから、シリア やイラン、イラク、アルメニア、ジョージアの影響を受けたなじみのないものまでおよそ140種類ほど。

たとえば「イマム・フェインテッド(坊さんの気絶)」なんていう、くり抜いたナスにトマトやタマネギなどの野菜を詰めた料理があります。

料理自体はなんの目新しさもないですけど、面白い名前の料理ですよね?

これは昔のイスラム教指導者のお気に入り料理だったことから、そんな名前がついたのだそうです。

彼はオリーブオイル商人の娘と結婚したのですが、彼女が作るこの料理をいたく気に入って、毎日作ってもらって食べていたところ、13日目になって突然この料理が食卓から姿を消したんだそうです。

「どうして今日はないのだ?」と妻に尋ねる指導者。

すると妻はこう言うんです。

「嫁入り道具のオリーブオイルがなくなってしまいました。また作るためには、オリーブオイルを買わなければならない」

当時のオリーブオイルはとても貴重なものでした。

それで、妻の返答を聞いた指導者は気絶してしまったんですね。

それ以来、この料理は「坊さんの気絶」と呼ばれているのだそうです。

交易の中心地として、東西のさまざまな素材を使うことで発展してきたトルコ料理ですが、本書においてロビンは、赤トウガラシやトウモロコシ、ディルやタイムといった比較的手に入れやすい材料で作れるようにしています。

本の構成としては、最初にトルコ料理で使われる素材の一般的な説明があって、その後に料理のレシピが地域ごとに章立てられて紹介されます。

例えば、肥沃な黒海地方からは、スイスチャードとハーブの入ったパンなど。

コーカサス地方に近い北東部からは、ブルーチーズとバターをからめた平打ちパスタの「ハンカチーフヌードル」が。

これはオンラインでレシピを見つけたので、リンクを貼っておきますね。

また、2007年に武力衝突のあった南東部のハッキャリで食べられている、カボチャと一緒に煮込んで食べるミートボールなんかも紹介されています。

西欧世界との窓口ということで、いまだにテロや武力衝突などの緊張感にさらされているトルコ。

その料理と同じように、お互いの良さを引き立てあうような国家関係をどこの国も構築していくべきですし、そのためにはぼくたちもいろいろと学んでいかなければな、と思います。

cookbook『Istanbul and Beyond: Exploring the Diverse Cuisines of Turkey』は、ラックス・マーティン・ブックスから絶賛発売中です。

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。