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ほうるもんだって食べるもん

ホルモンの鉄人8年越しのcookbookがいよいよ発売

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
7 min readAug 8, 2017

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最近夏バテで内臓が弱っている気がする……という方のために、今日は内臓料理で全米にセンセーションを巻き起こし、テレビの料理コンペ番組でも活躍したシェフのcookbookをご紹介したいと思います。

本書『Offal Good: Cooking from the Heart, with Guts』は、かつてサンフランシスコにあった「インカント」というレストランのエグゼクティヴシェフを務めていた、クリス・コセンティーノによるcookbook。

表紙の写真からわかるかもしれませんが、インカントはいわゆるホルモンや、頭や足などの端肉として捨てられてしまうような部位の料理を売りにしていた大人気のレストランだったんです。

残念ながらインカントは2014年3月に閉店してしまったのですが、クリスがホルモン料理の集大成となるcookbookを執筆中だということは2009年の時点でアナウンスされており、8年も経って店が閉店したあとに発売にこぎつけたというのは、ちょっとした驚きです。

多分、当初の予定ではインカントの名前が入る予定だったんだろうな。

現在、彼は同じサンフランシスコ市内にある「コックスコーム」という牡蠣と肉料理をメインにしたレストランで、エグゼクティヴシェフを務めています。

店のスペシャリテである「薪窯でローストした豚の頭」に、インカント時代の名残を感じますね。

さてさてcookbookの話に戻りますが、本書はロンドンの「セント・ジョン」のファーガス・ヘンダーソンによる1999年のcookbook『Nose To Tail Eating』を、西海岸的にモダンにアレンジしたcookbookと位置づけることができるでしょう。

ファーガスが提唱した「鼻先から尻尾まで」の哲学の実践として、どのように家庭料理にホルモンなどの食材を取りいれていけばいいのかを、丁寧にガイドしてくれるcookbookです。

本の構成としては、前半部が各内臓の部位(皮、頭、タン、耳なども)ごとの説明。

それぞれのホルモンがどんな料理に用いられるのか、下ごしらえはどうしたらいいのか、あるいは食肉店にどうやってオーダーしたらいいのかなどを教授してくれます。

『Offal Good: Cooking from the Heart, with Guts』より

この前半部は耐性のない人にはショッキングな写真も多いので、書店などでページをめくる際には注意してくださいね。

残りの後半部は、牛・豚・羊・家禽類と動物ごとに章立てされていて、それぞれのホルモンを使った料理のレシピが掲載されています。

テリーヌやソーセージ、そしてアメリカ南部料理の「豚足とトマト、白インゲン豆の煮込み」といった、昔から内臓がよく用いられる伝統的なレシピから、「ビーツとバルサミコ酢を添えた仔牛の生レバー」「チェリーピクルスと鴨レバーテリーヌ」「ハングタウン・フライ・バーガー(肉の代わりにブラッドソーセージを使用)」といったクリエイティヴなレシピまで、両方が押さえられているのがいいですね。

『Offal Good: Cooking from the Heart, with Guts』より

「鶏のいろんなホルモンとモモ肉のごった煮」といった家庭でも気軽に挑戦してみたくなるレシピもあって、ぼくももう少し涼しくなったら「フワの煮込み」に次ぐホルモン系煮込み料理を作ってみたいと思いました。

著者であるクリス・コセンティーノは、ロードアイランド州プロヴィデンスにあるジョンソン&ウェールズ大学を出た後、コッポラ、デニーロ、ロビン・ウィリアムズが共同オーナーだったルビコンや、シェ・パニースなどのさまざまなレストランで修行。

そして2002年に、インカントのエグゼクティヴ・シェフに就任したのでした。

そこで彼は、「イタリアの郷土料理を大胆に翻案した」として、サンフランシスコ・クロニクル紙から三つ星の評価を獲得。

ホルモン料理の先駆者として全国的な注目を集め、『料理の鉄人』のアメリカ版である『アイアン・シェフ・アメリカ』や『トップ・シェフ:マスターズ』といった料理対決番組にも出演しました。

彼の信念はファーガス・アンダーソン同様、「食用に飼育され屠殺された動物は、その命を余すところなくいただき、決して廃棄するべきではない」というもの。

ホルモン類は廃棄するものでも、貧しいひとたちが食べるものでもなく、肉を食べるすべての人間が持続可能性と倫理性の原則にもとづいて引き受けていかねばならない責任なのだとすると、それをいかにおいしく、楽しく、バリエーション豊かに食べるのかを追求するクリスのこうした試みには、もっと多くの人の目が向けられていいのになと思います。

本書の写真を担当しているのは、マイケル・ハーラン・ターケル。

かつては料理人志望だったマイケルは、長年にわたりキッチンの裏側を撮ってきたフォトグラファーで、レストラン業界に生きるシェフたちのドキュメンタリーである〈Back of the House〉プロジェクトは、2006から2011まで自らフォトエディターを務めていたフリーペーパー「エディブル・ブルックリン」や「エディブル・マンハッタン」に掲載され、数々の写真賞を受賞しています。

現在は食にまつわるラジオ番組のホストとしても活躍しているマイケルは、その専門知識を生かして本書『Offal Good: Cooking from the Heart, with Guts』では写真のみならず、共著者としても名を連ねています。

彼の最近のプロジェクトでちょっと面白いなと思ったのは、〈スモウ・シチュー〉というイベントを開催していること。

これは日本の大相撲のライヴ中継を観ながら、みんなでワイワイちゃんこ鍋や弁当を食べようというフードイベントなんです。

次回は大相撲9月場所がある9月12日に、ポートランドで開催するそうですよ!

cookbook『Offal Good: Cooking from the Heart, with Guts』は、クラークソン・ポッター社より8月29日の発売。

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。