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Can you see? 動物油脂には魅力がいっぱい

ラードやシュマルツを活用するcookbook

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
8 min readFeb 28, 2019

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今日、2月28日はキリスト教の祝祭日のひとつ「脂の木曜日」。

断食期間である四旬節を前に、今日はごちそうを食べておきましょう(食材を片付けておきましょう)という日で、ポーランドでは油たっぷりのポンチキが食べられたりするんですね。

そこで今日は、2018年11月に発売されたcookbook『The Fat Kitchen: How to Render, Cure & Cook with Lard, Tallow & Poultry Fat』をご紹介したいと思います。

元記事となったのは、アトランタ・ジャーナル・コンスティテューションのウェブサイトに掲載されていたこちらの記事。

記事を書いたのは、同紙の元編集者であるスーザン・パケットです。

スーザン・パケット(写真左)

彼女が写真右のエディー・エルナンデスと書いたcookbook『Turnip Greens & Tortillas: A Mexican Chef Spices Up the Southern Kitchen』も、ヘルシーとかクリーンなどということばとは無縁の、普段着の料理を集めたレシピ本でした。

彼女が『The Fat Kitchen』をどう評価するのか、見ていきましょう。

コレステロールの数値が高いので医者から動物性脂肪は止められている、というひとは読み飛ばして構いません。

そうでない方、めくるめく動物性脂肪の世界にようこそ!

ある年代の南部人なら、サクサクのビスケットやカリカリのコーンブレッドを作る鍵がラードにあるということをたいてい知っている。しかしここ数年、「健康警察」が動物性脂肪は心臓に悪いと警告し、代わりに植物性油に切り替えることを勧めてくる。いまやトランス脂肪酸と精製糖はすっかり悪役になっているが、私たちの食事に特別な動物性脂肪が少しあるというのは、本当は良いことなのかもしれない。

動物性脂肪は身体に悪いだとか、いやいや脳梗塞のリスクを減らすためには必須だとか、いろいろな説がありますが、結局どれも自分の立場や食習慣を正当化したいがために言っているだけな気がします。

ひとりひとりに効く薬が違うように、かかるアレルギーが違うように、食べ物の合う合わないだってひとそれぞれなのが自然なはず。

「植物性脂肪は身体に良い」「動物性脂肪は身体に悪い」といった言い方は、あたかも人間がみな同じであるかのように扱っている点で、そもそも無理な話だと思います。

最近の調査が何を言おうとも、絶対に変わらない真理がひとつある。動物性脂肪で調理した食べ物はおいしいということだ。とても、とてもおいしい。しかし私たちの多くはその使い方をあまりよく知らないのだ。それこそがアンドレア・チェスマンが『The Fat Kitchen: How to Render, Cure & Cook with Lard, Tallow & Poultry Fat』を書いた理由だ。

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そう。

動物性脂肪を「おいしい」と感じないひともいると思いますが、そうでないなら、無理して「おいしい」を我慢するのもかえって身体に悪いんじゃないかな……。

ヴァーモント州の料理インストラクターである彼女は、ポーランド生まれのユダヤ系の祖母が作るシュマルツの風味がする料理を食べて育った。

シュマルツというのは、いまフードシーンでちょっと流行りかけている動物性の食用油のことで、鶏やガチョウなどの家禽類から採られることが多いものです。

ドイツでは豚から採るラードも、シュマルツのひとつに含まれるようです。

彼女は伝統的な料理技術に関する多くの本の著者として、食の世界にもたらされた動物性脂肪の類いまれなるフレーバーと舌触りに深い理解を示してきた。アメリカのものでも国際的なものでも、心あたたまる快適な料理こそが、作りやすい彼女のレシピを支えてきた。彼女は冬カボチャと混ぜ合わせたり、フレンチタルトに載せたりするリンゴを鴨脂でカラメライズし、ベーコンの脂で芽キャベツをローストし、ラードで葱油餅を焼く。

これら以外にも、パスタカルボナーラや豚肉のタマレ、鶏肉のコンフィ、ヨークシャープディングを添えたローストビーフなど、動物性油脂を使用する100種類近くのレシピが記載されています。

『The Fat Kitchen: How to Render, Cure & Cook with Lard, Tallow & Poultry Fat』より

とはいえ、すべての動物脂肪が同じように作られているわけではない。チェスマンは放牧で育てられた動物の脂肪 — — 牛肉、羊肉、ヤギ肉、豚肉、家禽肉、そして熊油(!)さえも — — だけを使うことを提唱し、それらの違いやその使い方を説明するためにかなり詳細な部分にまで踏み込んでいる。

すき焼きの最初に鉄鍋にひく牛脂、鴨南蛮そばのスープに浮かぶ鴨脂に、ジンギスカンの鍋肌をつたう羊脂……。

動物性油はどれも植物油にはない独特のクセがあって、それがどうしようもなく食欲をそそるんですよね。

そういえば、昨年秋に高知に行ったとき、直売所でタヌキ油がよく売られているのを目にしました。

料理というよりも、薬として重宝されていたようですが、ちょっと味見してみればよかったな……。

ヴィジュアル解説されたチュートリアルが、その捕らえ方、精製の仕方、加工の仕方、保存の仕方を教えてくれる。

『The Fat Kitchen: How to Render, Cure & Cook with Lard, Tallow & Poultry Fat』より

これは動物脂の精製の仕方ですが、こうやって写真で手順が解説されているのでとてもわかりやすいです。

それぞれの脂の色やフレーバーなどの個性や、

『The Fat Kitchen: How to Render, Cure & Cook with Lard, Tallow & Poultry Fat』より

脂が煙を上げ始める温度の解説なんかも詳しく述べられていますよ。

『The Fat Kitchen: How to Render, Cure & Cook with Lard, Tallow & Poultry Fat』より

チェスマンは自らに課した宿題をやり遂げた魅力的な書き手であり、それらのおいしい残り物である脂肪を二度と無駄にしないために、証拠を並べて納得のできる説明をしてくれるのだ。

というわけで、スーザン・パケットもお墨付きを与えるこの『The Fat Kitchen』。

『The Fat Kitchen: How to Render, Cure & Cook with Lard, Tallow & Poultry Fat』より

先週ご紹介した、狩猟と釣りのcookbook『The MeatEater Fish and Game Cookbook: Recipes and Techniques for Every Hunter and Angler』とセットで揃えて、肉と脂を上手に利用できるといいですよね。

あと、ククブクでは2017年にラードに特化したcookbookのストーリーも書いていますので、興味のある方は併せてお読みください!

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。