金曜日のcookbookランキング
#073 ミードは人類最古の酒
新たな料理本との偶然の出会いを楽しむ、金曜日のcookbookランキング。
6月第3週のランキングをお伝えします。
最近、意識的に映画館に足を運んでいるのですが、昨夜は『5TO9』というシンガポール/日本/中国/タイの合作映画を観てきました。
永瀬正敏の出演するアジアの合作映画ということで、平成の末に突如よみがえった『アジアン・ビート』か!?と予期して出かけたんですが、実際の映画は(日本パート以外は)もっとしっとりとしたものでした。
映画の構成は、先に挙げたアジア4か国の監督による短編4本をオムニバス形式で見せるというもの。
2014年のワールドカップ決勝、ドイツ×ブラジル戦の夜が共通の舞台になっていて(実際のミネイロンの惨劇は準決勝なので、これは映画的現実ってことだと思います)、その午後5時から午前9時までのできごとを描いているから、『5TO9』というタイトルなんですね。
映画のなかの決勝戦は、ドイツとブラジルという優勝候補どうしの対決にもかかわらず、0–0から7–0へと非現実的で圧倒的な点差になっていくのですが(現実の準決勝も7–1でドイツの圧勝)、その過程で4つの短編が、急激な社会の変化を扱ったもの(中国パート、シンガポールパート)から、荒唐無稽なフィクション(日本パート)、そして最終的にはSF映画(の撮影現場ですが。タイパート)へと、リアルさを失って流れていくのが面白かったです。
映写フィルムのリールを交換するためにバイクをぶっ飛ばすマイク(だと思っている。このシーンだけモノクロだし、映画館に住んでるし)が、相変わらず格好良かった!
『5TO9』は6月22日まで、東京・池袋のシネマ・ロサで公開中です。
さて、今週のcookbookのランキングを見ていきましょうか。
- Brad Thomas Parsons『Bitters: A Spirited History of a Classic Cure-All, with Cocktails, Recipes, and Formulas』(Ten Speed Press)
- Priscilla Parkhurst Ferguson『Word of Mouth: What We Talk About When We Talk About Food』(Univ of California Pr)
- Heston Blumenthalほか『Dashi and Umami: The Heart of Japanese Cuisine』(Cross Media)
- Matt Goulding『Grape, Olive, Pig: Deep Travels Through Spain’s Food Culture』(Hardie Grant Books)
- Matt Goulding『Pasta, Pane, Vino: Deep Travels Through Italy’s Food Culture』(Harper Wave/Anthony Bourdain)
- Matt Goulding『Rice, Noodle, Fish: Deep Travels Through Japan’s Food Culture』(Harper Wave/Anthony Bourdain)
- Yotam Ottolenghi『Ottolenghi Simple: A Cookbook』(Ten Speed Press)
- Mayo Clinic Physicians『The New Mayo Clinic Cookbook 2nd Edition』(Oxmoor House)
- Fred Minnick『Mead: The Libations, Legends, and Lore of History’s Oldest Drink』(Running Press Adult)
- Steve Roden『Krazy Kids’ Food!: Vintage Food Graphics』(Taschen America Llc)
出典:Amazon.co.jpランキング(すべてのカテゴリ > 洋書 > Cookbooks, Food & Wine / Kindle版は除く)
今週は、やはりアンソニー・ボーデインの関連本が際立つランキングでした。
上のランキングからは除外していますが、Kindle本を含めたランキングでは1位が『Kitchen Confidential』、23位が『A Cook’s Tour: In Search of the Perfect Meal』、29位が『Appetites: A Cookbook』と、軒並みボーデイン作品が上位に入っていました。
そして上のランキングで4〜6位に入っているマット・グールディングのフードジャーナル本も、アンソニー・ボーデインとの縁が非常に深い作品たちです(ボーデインはマットの設立したフードジャーナルサイト「Roads & Kingdoms」の外部編集長)。
彼が亡くなったというニュースは本当に衝撃的でしたが、あらためて彼の功績を知りたいというひとたちが、これらの書籍を購入しているんだと思います。
通常どおりの印刷本ランキングとしては、今週はブラッド・トーマス・パーソンズのエッセイ&カクテルレシピ集『Bitters』が1位を獲得。
2位には、食についての「語り」を論じたプリシラ・パークハースト・ファーガソンの『Word of Mouth』がランクインしました。
表紙はエドワード・ホッパーの《Tables for Ladies》。
副題は、レイモンド・カーヴァーの『愛について語るときに我々の語ること』のもじりですね。
そして今週ククブクが注目するのは、9位にランクインした『Mead: The Libations, Legends, and Lore of History’s Oldest Drink』です。
タイトルにもなっている「ミード」って知ってますか?
ミードは人類史上最古の酒と呼ばれている「ハチミツ酒」のこと。
ミードは雨水のたまった蜂の巣などから自然に採取できることから、旧石器時代の人類はすでに愛飲していたと考えられていて、神話のなかではギリシャの神々や北欧のトール神なども飲んでいたとされています。
お酒なので飲むと当然酔っぱらうわけですが、この酩酊によって人間は幻視や幻聴を体感することとなり、祭祀や宗教の誕生とも深くかかわっています。
クロード・レヴィ=ストロースがその著書『蜜から灰へ』で、ミードを飲酒するようになって人間は自然から文化へと移行し、飲酒こそが人間の行動を決定づける行為である、なんて述べているんですよ。
この書籍はそんなミードの最近の醸造ブームを背景に、飲酒史とそれにまつわるストーリー、50種類以上のカクテルレシピなどをまとめたもの。
著者のフレッド・ミンニックは、ケンタッキー州ルイヴィルに住んでいるバーボンの専門家で、ハフポストなどに酒にまつわるコラムなどを寄稿している人物です。
これまでにバーボンやラムなどの蒸留酒に関する書籍を上梓していますが、醸造酒についての本はこの『Mead』が初とのこと。
そしてこの古代酒ミードにぴったりのレトロなイラストを手がけているのは、タイポグラフィーを得意とするドイツ・デュッセルドルフのグラフィックデザイナー、トビアス・ソウル。
赤ひげがカッコいいです。
この『Mead』を機に、ハチミツ酒ミードの世界をぜひ体験してみてくださいね!
といったところで、今週のランキングはここまで。
また来週をお楽しみに!