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最後のデザートに今夜もなったな

絶版になっていたデザートのレシピ本がこの秋復刊

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
8 min readAug 14, 2019

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アメリカのフード情報サイトEaterのシニアエディター、ダニエラ・ガラルサが、8月5日にこんなツイートを投稿しているのを見つけました。

なんと! クラウディア・フレミングとメリッサ・クラークの画期的なデザートcookbook『The Last Course』が復刊されるって。何年も絶版だったのに。私の持っているやつについてだったら、いくらでも話すことができる。この本にはたくさんのアイディアがあふれてる。とても大好きな本。

話題に上がっている『The Last Course: The Desserts of Gramercy Tavern』は、2001年にランダム・ハウス社から発売された「コースの最後」に食べるデザートのcookbook。

それが今回は「The Desserts of Gramercy Tavern」の副題がとれて、『The Last Course: A Cookbook』として復刊になるんですね。

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ニューヨーク「グラマシー・タヴァーン」のペストリーシェフを務めていたクラウディアは、本書出版の後に大都会を離れ、亡き夫のジェリー・ヘイデンとともにペンション「ノース・フォーク・テーブル&イン」をオープンしたので、今回はグラマシーの名前は削除されているんでしょう。

リニューアル版は今年11月に発売予定ですが、その発売前にこの本がいったいどんな本なのか、何がそんなにダニエラを興奮させるのか、2013年のサヴール誌の記事から探ってみたいと思います。

ぼくが子どものとき、たぶん8歳か9歳くらいのとき、ディナーに呼ばれて隣の家に行ったことがある。ディナーのゲストにひとりで招待されたのは初めてで、ホストのひとたちは食事の最後にデザートを出してくれた。それはリンゴだった。

そうだ、最初にはっきりさせておかなければ。

サヴール誌に2013年当時この記事を書いたのは、ダニエラ・ガラルサではなく、フードライターのティム・マズレックです。

ややこしくてごめんなさいね……。

彼らはこれが食事を終えるためには至極当然のことのようにふるまったのだが、ぼくは家に帰ると母親に何が起こったのか、その恐怖を伝えたのだった。

食後のリンゴをまさか「horror」とまで言うなんて(笑)

彼女はすぐに「変なひとたちね」と同意してくれ、ぼくにクッキーを出してくれた。ぼくの家ではデザートを出さないというのは選択肢になかった — — そしてリンゴはデザートではなかったのだ。ぼくの家族はそれ以外のコース料理をどう構成していくかを知るため、デザートメニューを最初に見るような連中だった。ぼくたちはベーカリーやペストリーシェフを基準にして旅行の計画を立てたりした。ことデザートについては、注意深く取り扱ったものなのだ。なんの飾り気のないリンゴも素晴らしいかもしれないけれども、それはデザートではないって、クラウディア・フレミングだったらぼくたちに賛成してくれると思う。

ちゃんと手をかけて作り込んだものがデザートだというのがマズレック家の伝統だったんですね。

で、「クラウディア・フレミングが賛成してくれるだろう」ということは、彼女の作るデザートも相当手が込んでいるということです。

本書の著者のひとりクラウディア・フレミングは、グラマシー・タヴァーン勤務時代にアメリカのペストリー界に新風を巻き起こし、ジェームズ・ビアード財団賞の最優秀ペストリーシェフ賞を受賞しています。

クラウディア・フレミング

彼女への密着取材記事は、Lucky Peach誌の2013年秋号に掲載されていますので、興味がありましたら読んでみてください。

『Lucky Peach, Issue 9』より
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フレミングの最高傑作である『The Last Course』は、ぼくが本当に恋に落ちた最初のcookbookのうちのひとつだ。彼女やグラマシー・タヴァーンのことをまだ何も知らないうちに買った。それが彼女が名を上げたマンハッタンのレストランであることも知らず。季節のデザートがすべて載っている本を見つけたと、単純にうれしかっただけだった。その本は食材を中心として章が分けられていて、食材は果物や野菜が中心。けれどスパイスや乳製品、花さえある。レモンとケシの実のクッキーのような基本的なものから、ローズマリーとブドウのフォカッチャのようなやや複雑なものまで、よく試行されたレシピは幅広い。

クラウディアのデザートの近作

本の最終章ではそれまでに登場したレシピを組み合わせて、美しいデザートを構成する方法を教えてくれる。夏のベリーとバラのメレンゲ、ラズベリー・シャーベット、そしてヤギ乳ヨーグルトとバラのムースを組み合わせた、グラマシー・タヴァーンで提供されていた傑作の数々のように。

こちらも近作

しかしこの本が本当に素晴らしい点は、ホーム・クックたちにまるで自分がペストリーシェフのような気分にさせてくれるところだ。ぼくは何年もかけて『The Last Course』のほとんどを作ってきたが、ぼくもディナーに呼んだゲストもいままでに失望させられたことはない。フレミングは他の手段では可能だとは思えないような課題に取り組む自信を、ぼくに与えてくれた。あのブドウのフォカッチャも、酵母を使ってパンを作るというぼくの恐怖を完全に打ち負かしてくれた。

最近フォカッチャを自分で作るので、このブドウのフォカッチャは挑戦してみたいな。

デブ・ペレルマンのブログ「スミッテン・キッチン」に、詳細なレシピが掲載されていました。

よし、もうちょっとブドウが出回るようになったら試してみよう。

組み合わせたデザートのいくつかはページ上で圧倒的な存在感を放っているけれども、フレミングの思慮深く心強いレシピ説明によって、いちばんむずかしい課題にも挑戦してみたくなるような勇気を与えてくれる。『The Last Course』は、ペストリーシェフやスイーツのコースの喜びついて深く考えているひとの頭のなかをうかがわせてくれるだろう。デザートがリンゴでは満足できないすべてのひとにとっては完璧な一冊だ。

本書『The Last Course: A Cookbook』には以上で述べられたデザートの他に、「チェリー・チーズケーキ・タルトの赤ワインがけ」や「リンゴのタルトタタン」、「栗のスフレ アマルニャックとナツメグのカスタードソースがけ」、「バターミルク・パンナコッタのソーテルヌ・ジュレ」など、凝りに凝ったデザートが175種類ほど掲載されています。

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ダニー・マイヤーとトム・コリッチオが序文を寄せた新版は、イチジクのタルトのクロースアップ写真が目印。

2019年11月12日の発売ですよ。

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。