変わりゆく地方料理を記録にとどめて
フード情報サイトEaterによる春のおすすめcookbook その2
ゴールデンウィークの谷間ということで、もう春というよりも初夏といった陽気ですが。
フード情報サイトEaterの、3月21日付記事「2018年春の重要なcookbook」を読んでいっています。
昨日は「場所の感覚」にすぐれたcookbookということで、ニューヨークのハーレムと、日本を舞台にしたcookbookをメインに7冊のcookbookをご紹介しました。
今日はその続き。
この春発売のcookbookのなかから、アメリカの地方料理にフォーカスしたものを見ていきたいと思います!
アメリカ地方料理の瞑想録
エディー・エルナンデス、スーザン・パケット『Turnip Greens & Tortillas: A Mexican Chef Spices Up the Southern Kitchen』(Rux Martin/Houghton Mifflin Harcourt)
アトランタ周辺のちいさなレストランチェーン「タケリア・デル・ソル」の共同経営者で総料理長のエディー・エルナンデスは、最初の著書のなかで、南部の時流の変化を無意識的にとらえている。ジョージア州周辺の歴史への意識とときに生じる文化的な衝突が、この書籍を通じてその細い線をより合わせる。
この『Turnip Greens & Tortillas』については、先週のククブクのストーリーでもご紹介しましたね。
「メキシコでは、正統性なんて気にしないんだよ。みんな近道をする。手に入るもので間に合わせで料理をするんだ」と彼は書いている。「ぼくは正しい食を目指しているわけじゃないんだ」それでこの本には、奇妙な(しかし食欲をそそる!)前菜、メキシコ風の「巻き寿司」のレシピが含まれているのだ。彼はテクスメクス料理の規範に深入りし、5品ほどのエンチラーダのレシピ、25種類ほどのタコスのレシピ、そしてたくさんのスープ、シチュー、サルサのレシピを教えてくれる。
そして賢くも、コラードの上にふわふわのトルティーヤの器を載せた、鶏肉とグリーンチリのポットパイを提供してくれるのだ。彼は南部のたくさんの種類の豆をうまく使い、まるごとのエビとセラーノチリを網焼きにし、黒豆のチリにピーナッツバターを入れ、テキーラでミントジュレップを作る。
人びとが集まり、テーブルいっぱいの料理を囲んでいるようすがしばしば繰り返されている。エルナンデスは壁を作るのではなく、親密な関係を結ぶことを意図した短い雑談やより深い物語によって、その友好的な感覚を利用しようとしているのだ。
このcookbookの表紙のスカイブルーは、高く厚い壁のない場所、そこから広々と見渡すことのできる空を象徴しているような気がします。
ボン・ディアス『Coconuts and Collards: Recipes and Stories from Puerto Rico to the Deep South』(University Press of Florida)
「私が作ったから、プエルトリコ料理なのだ」ライターでプロデューサーのボン・ディアスが書いた新刊は、このような書き出しで始まる。本書はアメリカ南部のやり方でプエルトリコを眺める旅だ。それはその島(アメリカ領)で生まれ、子どものころに大陸に移動してきた多くのプエルトリコ人にとって、なじみ深い物語のひとつなのだ。ディアスはプエルトルコの家庭の食料庫にある材料 — — サソン・ゴーヤのシーズニングパック、缶入りのひよこ豆、レーズン、米 — — に囲まれて成長したけれども、彼女はその使いかたを学んだことはなく、むしろ自活するまでは全然好きではなかった。
本書『Coconuts and Collards』は、プエルトリコからの移民の家系に育った著者による、プエルトリコとアメリカ南部のハイブリッド料理のcookbookです。
ご存知かと思いますが、プエルトリコはアメリカの準州で、かつて住民投票でアメリカ51番目の州になることの是非が問われたこともあるんですよ。
細部を見るレポーターの目と、原典に当たる研究者の認識力で、彼女は母親の持っていた『Cocina Criolla』(多くのプエルトリコ人が自分たちの『The Joy of Cooking』だと思っている)とマリア・マルティネス・デ・イリザリーの『Cocinando en San Germán』、そしてロニ・ランディの最近のアパラチア料理の名著、『Victuals』を道標として参照する。
その多くで彼女は自分の思い出に言及し、それらが彼女の料理人生をかいま見せるものとして、章と章のあいだの空間を満たしている。
料理の道に進むひとにはよくある話ですが、彼女も幼いころ、母親が夜遅くまで働いていたので、家の料理のほとんどを担当していたのだそうです。
そしてそんな彼女に料理のインスピレーションを与えてくれたのは、夏休みに帰省したプエルトリコでおいしい料理を作ってくれた、おばあちゃんだったのだとか。
レシピはプエルトリコの料理のセオリーに、現代的なスピンをかけたものだ。特に彼女のプエルトリコの前菜、揚げたプランテーンのスープとブラッディー・メアリー・ソフリットは。ディアスは訓練されたシェフではないし、レストランと直接の関係を持っていないかもしれないが、今日存在するアメリカ系プエルトリコ料理により大きな関心を呼び起こすだけの声を持っている。
たとえばかぼちゃの肉詰めのレシピのなかでは、牛ひき肉のかわりにグルテンミートや豆腐の使用を提案して、ベジタリアンのひとにも採用してもらえるようにするなど、そのあたりに「現代的なスピン」が見られます。
ポーラ・フォーブス『The Austin Cookbook: Recipes and Stories from Deep in the Heart of Texas 』(Abrams)
ライター、cookbook批評家、そしてEaterの元編集者であるポーラ・フォーブスは、その最初の本の中で、持続的な信念を持って自分が故郷として選んだテキサス州オースティンについて書いている。
食品グループによってまとめられたこのcookbookのレシピは、オースティンのもっとも有名なレストランから集められた。いわば「コウモリの街」のグランド・フードツアーだ。ラ・バーベキューとミクルスウェイトによるバーベキューのコツ。
タマレ・ハウス・イーストとタコデリによるタコスの秘訣。
そしてマッツ・エル・ランチョのボブ・アームストロング・ディップのようなテクスメクスの定番料理のレシピなどなど。
州南部の鼻声を聞けば思い出すようなテキサスのスタンダード料理(フライドチキン、ピメントチーズ、そしてチキン・フライド・ステーキ)や、新古典料理(バファリナのチョリソー・ポテト・ピザやジャスティンズの鴨脂でローストしたジャガイモと鴨のコンフィ、そしていつ行っても満席のバーレー・スワインの、シェフ ブライス・ギルモアによるエビ団子入り豚の皮のヌードル)が、本書にはあふれている。
しかしそれにより磨きをかけているのが、フォーブスのレストランレポートとcookbook批評の経験だ。彼女は自身のゆるぎない信念を述べながらも意見の違いを認め、長年にわたる誤解を探求し、地域の食品の簡単な歴史にページを捧げ、著名なオースティンのシェフたちから面白い内緒話を引き出す。全体を通じて彼女は、(彼女のように)オースティンで食べることは無上の喜びであると読者に納得させるのだ。
オースティンといえば、音楽とテックの巨大イベント「SXSW」や、イベントの合間に腹を満たすのにぴったりのフードトラックが有名な街。
本書にもそんな気軽な料理のレシピが、100種類近く掲載されています。
その他の特筆すべき書籍
ギャビー・ダルキン『What’s Gaby Cooking: Everyday California Food』(Abrams)
こちらはライター、cookbook作家、プライベートシェフのギャビー・ダルキンが書いた、カリフォルニア料理の喜びが詰まった一冊。
ヴァージニア・ウィリス『Secrets of the Southern Table: A Food Lover’s Tour of the Global South』(Houghton Mifflin Harcourt)
本書は、ジェームズ・ビアード財団賞を獲った『Lighten Up, Y’all: Classic Southern Recipes Made Healthy and Wholesome』の著者による、現代的な南部料理のcookbookとして注目されています。
ということで、アメリカの地方料理の最新を知ることができる5冊をご紹介しました。
また明日に続きます!