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ラタトゥイユの東、パスタの西

コート・ダジュールのふたつ星レストランがcookbookを発売

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
8 min readNov 21, 2018

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毎年発表されている「世界のベストレストラン50」。

今年2018年は、マッシモ・ボットゥーラの「オステリア・フランチェスカーナ」が首位に輝き、2位にはスペインのジローナにある「アル・サリェー・ダ・カン・ロカ」が選ばれました。

このとき第3位に食い込んだのが、フランス・マントンにある「ミラズール」。

今日はそのレストランが11月に発売したばかりの、新作cookbookをご紹介したいと思います。

サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙の記事をもとにお伝えします。

マウロ・コラグレコはマントン、さらに言えば、そのコミューンがあるフレンチ・リビエラに恋をしている。マントンは、そのアルゼンチン人シェフのレストラン「ミラズール」がある場所でもあり、同レストランは2018年にミシュランのふたつ星と、世界のベストレストラン50での第3位を獲得している。

ミラズールでシェフを務めるマウロ・コラグレコは、イタリア系アルゼンチン人。

ラ・ロシェル・ホテルスクールを出たマウロは、ベルナール・ロワゾー、アラン・パッサール、アラン・デュカス、ギィ・マルタンといったフレンチのスターシェフたちのもとで修行をし、その後独立して自分のレストランをオープンします。

彼の著書『Mirazur』(2018年)のなかで、「ミラズールは、コート・ダジュールに広がる沿海アルプスの麓、マントンにあるレストランだ。そこはフランスの東端になる最後の村で、イタリアのパスタが始まる西の端。特権的な場所で、出発の地でも到着の地でもあり、魔法が広がりそして凝縮する渦の中心。田園地帯と同じようなリズムでビートを刻んでいる中心街だ」とコラグレコは書いている。

マントンは、フランスとイタリアのちょうど国境部分にある街で、地中海特有の温暖な気候が特徴のリゾート地。

マウロの話によると、街の北に大きな岩壁があるため、日中に太陽の光を吸い込んで夜のあいだも暖かく、フランスで唯一バナナが育つ地域なのだそうです。

そして、ミラズールはイタリアの国境から300メートルしか離れていないので、イタリアの市場からも食材を調達することができ、必然的に料理のバリエーションも豊かになるのが、場所的なメリットだそうです。

「コート・ダジュールでは、光に魅惑的な存在感がある。流れるようで、なまめかしく、そのなかでは視覚が豊かになる。(中略)その力は現実生活のなかに、絵のように生き生きとした、さらに言えばそれをも超越する新たな側面を与えてくれる。この燃えるような光のなかで、この近辺での官能的な経験は増大し、時間はテンポを変え、光の変化によって示されるリズムが始まる。瞬間の絶対評価である。反射、影、高揚、変形、色彩、運動。特権的な空と海の色域は、海岸を通過し、眼前に広がる光によって彩られ、街や山のどの場所でも、広がる風景のどこからでも目撃することができる(後略)」

「世界のベストレスラン」のcookbookなので、言っていることがどこか高尚っぽいですね。

「ミラズールでは、この雰囲気を鮮やかに明白に経験することができる。地中海に向かって張り出し、雄大な山脈の壁にふちどられ、100年続く庭園に囲まれたこの立派なガラス窓のある3階建ての建物は、その比類なきクオリティの光の経験を再生産し、増大させてくれるのだ。ダイニングルームでは、壮大な海を見渡すことから始まる官能的な旅が続き、やがてテーブルにあるひとつひとつのものが、色彩とかたちによってディナーに表現された料理のひと皿ひと皿が、その構成の詳細が明らかになっていく。強さとコントラストの組み合わせが、それを取り巻くものと完全な調和をなしているのだ」

イタリア系のアルゼンチン人で、フランスで料理を学んだというマウロの多文化なルーツが、ミラズールの創造力の源となっており、それをクオリティの面で支えているのは、地元の生産者たち。

コラグレコは、この地域の人びとと食材についても書いている。レストランの菜園で野菜を育て、収穫しているロール。ヤギを育て、シェーブルチーズを生産しているアンヌ・マリーとその家族。

「キノコの友だち」アルベール。そして「最高のチェリー」を育てているジル。

本書は、オープンから12年を迎えるミラズールおよびマウロの初となるcookbookで、全部で65種類の料理のレシピが掲載されています。

料理の写真は美しく、風景写真も美しい。

その美しい写真を担当したのは、ブエノスアイレス在住のフードフォトグラファー、エドゥアルド・トーレス。

彼は「この本の仕事はチャレンジだったよ。レストランの全員のプロフェッショナリズムだけでなく、彼のチームが共有する感情や愛情も捉えなければならなかったからね」と振り返っています。

そしてミシュランの星を持つシェフの多くの本と同様に、レシピの多くは平均的なホームクックにとって簡単なものではない。

この種のcookbookというのは、実用性よりもアートブックとしての性格が強いですからね。

例えば「コールラビとカタツムリ」は、8時間かけてコールラビの水分を抜き、カタツムリを真空調理するものだ。カタツムリはそれから殻をはずし、足と腸を取り去って、身を混ぜ合わせる。

「イチジクのグラニータ」「仔鳩とスペルト小麦のリゾット」「黒胡麻のソースとイチゴのクーリ」「チェリー(全行程は「サクランボを洗って乾かし、クラッシュド・アイスに載せる」だけだ)」「サフラン・オイルをたらしたトマト・マティーニ」「アンチョビとケイパーをあしらった新ジャガイモ」「根セロリのピュレとイシビラメ、燻製ソースがけ」そして「ビーツの泡、燻製うなぎ、ヘレスビネガーを添えたビーツ」といった、もっと作りやすいレシピもある。

ミラズールのシグニチャー料理である「黒いモッツァレラボール」のレシピも載っているのかどうかは未確認です。

2018年の世界のベストレスランので第3位に輝いた、ミラズールの初のcookbook『Mirazur』は、カタプルタ・エディトーレスより11月6日の発売。

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この本の扉に掲載されていたチリの詩人、パプロ・ネルーダの詩「パンに捧げるオード」が面白かったので、最後に私訳して載せておきますね。

「パンに捧げるオード」

パンよ、

小麦から生まれ、

と火によって

お前はふくらむ。

密集しては軽くなり、

平たくなっては完璧にふくらみ、

お前は母の子宮を

正確に再現する。

パンよ、

お前はなんとシンプルで

なんと奥深いものなのだ。(中略)

人間の営み、

繰り返される奇跡、

人生の選択。

(中略)大地、

美、

愛、

それらはみな

パンの味がする、(中略)

(中略)すべては

共有されるために生まれる、

任されるために、

増やされるために。

(中略)そして

人生もまた

パンの形をもち、

シンプルで深くて、

無数で純粋なものなのだ。

— パブロ・ネルーダ

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。