ラタトゥイユの東、パスタの西
コート・ダジュールのふたつ星レストランがcookbookを発売
毎年発表されている「世界のベストレストラン50」。
今年2018年は、マッシモ・ボットゥーラの「オステリア・フランチェスカーナ」が首位に輝き、2位にはスペインのジローナにある「アル・サリェー・ダ・カン・ロカ」が選ばれました。
このとき第3位に食い込んだのが、フランス・マントンにある「ミラズール」。
今日はそのレストランが11月に発売したばかりの、新作cookbookをご紹介したいと思います。
サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙の記事をもとにお伝えします。
マウロ・コラグレコはマントン、さらに言えば、そのコミューンがあるフレンチ・リビエラに恋をしている。マントンは、そのアルゼンチン人シェフのレストラン「ミラズール」がある場所でもあり、同レストランは2018年にミシュランのふたつ星と、世界のベストレストラン50での第3位を獲得している。
ミラズールでシェフを務めるマウロ・コラグレコは、イタリア系アルゼンチン人。
ラ・ロシェル・ホテルスクールを出たマウロは、ベルナール・ロワゾー、アラン・パッサール、アラン・デュカス、ギィ・マルタンといったフレンチのスターシェフたちのもとで修行をし、その後独立して自分のレストランをオープンします。
彼の著書『Mirazur』(2018年)のなかで、「ミラズールは、コート・ダジュールに広がる沿海アルプスの麓、マントンにあるレストランだ。そこはフランスの東端になる最後の村で、イタリアのパスタが始まる西の端。特権的な場所で、出発の地でも到着の地でもあり、魔法が広がりそして凝縮する渦の中心。田園地帯と同じようなリズムでビートを刻んでいる中心街だ」とコラグレコは書いている。
マントンは、フランスとイタリアのちょうど国境部分にある街で、地中海特有の温暖な気候が特徴のリゾート地。
マウロの話によると、街の北に大きな岩壁があるため、日中に太陽の光を吸い込んで夜のあいだも暖かく、フランスで唯一バナナが育つ地域なのだそうです。
そして、ミラズールはイタリアの国境から300メートルしか離れていないので、イタリアの市場からも食材を調達することができ、必然的に料理のバリエーションも豊かになるのが、場所的なメリットだそうです。
「コート・ダジュールでは、光に魅惑的な存在感がある。流れるようで、なまめかしく、そのなかでは視覚が豊かになる。(中略)その力は現実生活のなかに、絵のように生き生きとした、さらに言えばそれをも超越する新たな側面を与えてくれる。この燃えるような光のなかで、この近辺での官能的な経験は増大し、時間はテンポを変え、光の変化によって示されるリズムが始まる。瞬間の絶対評価である。反射、影、高揚、変形、色彩、運動。特権的な空と海の色域は、海岸を通過し、眼前に広がる光によって彩られ、街や山のどの場所でも、広がる風景のどこからでも目撃することができる(後略)」
「世界のベストレスラン」のcookbookなので、言っていることがどこか高尚っぽいですね。
「ミラズールでは、この雰囲気を鮮やかに明白に経験することができる。地中海に向かって張り出し、雄大な山脈の壁にふちどられ、100年続く庭園に囲まれたこの立派なガラス窓のある3階建ての建物は、その比類なきクオリティの光の経験を再生産し、増大させてくれるのだ。ダイニングルームでは、壮大な海を見渡すことから始まる官能的な旅が続き、やがてテーブルにあるひとつひとつのものが、色彩とかたちによってディナーに表現された料理のひと皿ひと皿が、その構成の詳細が明らかになっていく。強さとコントラストの組み合わせが、それを取り巻くものと完全な調和をなしているのだ」
イタリア系のアルゼンチン人で、フランスで料理を学んだというマウロの多文化なルーツが、ミラズールの創造力の源となっており、それをクオリティの面で支えているのは、地元の生産者たち。
コラグレコは、この地域の人びとと食材についても書いている。レストランの菜園で野菜を育て、収穫しているロール。ヤギを育て、シェーブルチーズを生産しているアンヌ・マリーとその家族。
「キノコの友だち」アルベール。そして「最高のチェリー」を育てているジル。
本書は、オープンから12年を迎えるミラズールおよびマウロの初となるcookbookで、全部で65種類の料理のレシピが掲載されています。
料理の写真は美しく、風景写真も美しい。
その美しい写真を担当したのは、ブエノスアイレス在住のフードフォトグラファー、エドゥアルド・トーレス。
彼は「この本の仕事はチャレンジだったよ。レストランの全員のプロフェッショナリズムだけでなく、彼のチームが共有する感情や愛情も捉えなければならなかったからね」と振り返っています。
そしてミシュランの星を持つシェフの多くの本と同様に、レシピの多くは平均的なホームクックにとって簡単なものではない。
この種のcookbookというのは、実用性よりもアートブックとしての性格が強いですからね。
例えば「コールラビとカタツムリ」は、8時間かけてコールラビの水分を抜き、カタツムリを真空調理するものだ。カタツムリはそれから殻をはずし、足と腸を取り去って、身を混ぜ合わせる。
「イチジクのグラニータ」「仔鳩とスペルト小麦のリゾット」「黒胡麻のソースとイチゴのクーリ」「チェリー(全行程は「サクランボを洗って乾かし、クラッシュド・アイスに載せる」だけだ)」「サフラン・オイルをたらしたトマト・マティーニ」「アンチョビとケイパーをあしらった新ジャガイモ」「根セロリのピュレとイシビラメ、燻製ソースがけ」そして「ビーツの泡、燻製うなぎ、ヘレスビネガーを添えたビーツ」といった、もっと作りやすいレシピもある。
ミラズールのシグニチャー料理である「黒いモッツァレラボール」のレシピも載っているのかどうかは未確認です。
2018年の世界のベストレスランので第3位に輝いた、ミラズールの初のcookbook『Mirazur』は、カタプルタ・エディトーレスより11月6日の発売。
この本の扉に掲載されていたチリの詩人、パプロ・ネルーダの詩「パンに捧げるオード」が面白かったので、最後に私訳して載せておきますね。
「パンに捧げるオード」
パンよ、
小麦から生まれ、
水
と火によって
お前はふくらむ。
密集しては軽くなり、
平たくなっては完璧にふくらみ、
お前は母の子宮を
正確に再現する。
パンよ、
お前はなんとシンプルで
なんと奥深いものなのだ。(中略)
人間の営み、
繰り返される奇跡、
人生の選択。
(中略)大地、
美、
愛、
それらはみな
パンの味がする、(中略)
(中略)すべては
共有されるために生まれる、
任されるために、
増やされるために。
(中略)そして
人生もまた
パンの形をもち、
シンプルで深くて、
無数で純粋なものなのだ。
— パブロ・ネルーダ