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サクランボの種を飛ばす夏

スカイ・ギンジェルの私の人生を変えたレシピ

Junicci Hayakawa / 早川 純一
ククブク
Published in
6 min readJul 15, 2018

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イギリスの新聞ザ・ガーディアンに、「料理人の料理人」というインタヴュー記事があります。

先月の末から始まった連載なのかな?

第1回目はジェイミー・オリヴァーがリヴァーカフェでの師匠、ローズ・グレイについて語っていたのですが、7月6日付の記事では、スカイ・ギンジェルがアリス・ウォータースについて語っていました。

彼女はついこのあいだククブクのストーリーで書いた「ロンドンを定義づけるcookbook」に出てきた作家さんでしたので、興味を持ちました。

アリスがどのように彼女の人生を変えたのか(まあ、これは想像つきますが)、そしてそれはどんなレシピだったのか。

見ていきたいと思います。

アリス・ウォータースの『Chez Panisse』は、私が初期のころに手に入れたcookbookのひとつでした。18歳のクリスマスに父がプレゼントしてくれて、それ以来ずっといっしょなんです。とても美しい本で、ムール貝とフェンネル、サフラン、そしてクレームフレーシュを使う料理もこれに載っていたもの。シンプルでおいしく、本当に良質な素材を頼りにしている料理なんです。

いろいろと調べてみたんですけど、どのcookbookかわかりませんでした。

1963年9月生まれのスカイが18歳のクリスマスですから、少なくとも1981年には出版されていたシェパニのcookbookだとは思うのですが。

いちばん古いと思われる『Chez Panisse Menu Cookbook』も初版は1982年。

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計算が合わない……。

簡単に言えば、私が人生において良質な素材にこだわるのもすべてアリスの影響なんです。そのレシピはたしか私がこの本で作った最初のレシピで、私のレストランの「スプリング」でもこのメニューを提供しています。オマージュみたいなものです。

スカイ・ギンジェルのレストラン「スプリング」は、ロンドンのサマセット・ハウスにあります。

秋のムール貝は本当に美しいんです。私たちのように季節に合わせて料理をすれば、手に入るもの何を使っても、その素材の旬であればいつでも、しあわせな気分になることでしょう。そこで毎年秋になると、私たちはしばしば自分たちを駆り立てて、新しいものを作ろうとしているんです。たとえばムール貝のエスカベシュだったり。

とはいえ、いつも作る料理を作るのが良いこともあります。古い友人に会いに戻ったり、帰郷したりするようなもの。それが私がこの種のレシピから感じることなんです。たとえあなたの母親が世界でもっとも偉大な料理人でなくとも、彼女が作る料理には心あたたまる味が備わっている。私にとってのそれは、母のチキンカツとマッシュポテト、そしてサクランボです。子どものころ、学年の終わりを告げる果物といえばマンゴーとサクランボでした。学校が夏休みになると、私たちはいつも箱いっぱいのマンゴーとサクランボを手に入れたものです。庭に腰かけ、ふたつでひと組のサクランボをイヤリングみたいに耳にぶら下げ、種を吐き出し、芽が出てきて木になったらいいのになと思っていました。

ぼくの場合夏休みといえばスイカでしたが、種を飛ばして育てようとしたくだり、どこの国のひとも同じことを考えますね。

このように、食べものはひとをどこか特別なところへ連れていってくれます。これ見よがしの方法ではなく、心と体の両方に栄養を与えてくれます。ひとをハッピーな場所へ連れていってくれ、その大部分は記憶とリンクしている場所です。いっしょに働いたひとが、私のレシピはすべて記憶と結びついたものだと言ってくれたことがあります。

「料理」と「感情」と「記憶」の関係。

プルーストを持ち出すまでもなく、多くの文学作品やアート作品で題材になっていますよね。

突き詰めると論文一本書けそうです。

アリスほど私に強い影響を与えたシェフはいません。農家を尊重すること、生産物を第一にすること、オーガニックを推し進めること、良質でクリーンな土を求めること。彼女の食べものへのアプローチのすべてが私に影響を与えています。彼女のおかげで、私はより大きな問題の解決に食べものがどう貢献することができるのかを考えることができるんです。そして『Chez Panisse』は、すべてが始まった人生のあの瞬間に私を戻してくれるんです。料理に恋をしたあの瞬間に。それから35年、私はまだ同じ気持ちでいるんです。

この料理の具体的な作り方は、リンク先のガーディアン紙の元記事に書かれているので、作りたくなったらぜひ参考にしてみてください。

そして彼女のほかのレシピも気になったら、この料理も載っているcookbook『A Year In My Kitchen: Recipes Inspired by the Seasons and Based on a Culinary Toolbox of Inventive Flavorings』も手にとってみてくださいね。

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ライター、フォトグラファー。わかさいも本舗さんのウェブサイトのコピーなど。海外の料理本を紹介するサイト「ククブク」は現在お休み中。ロン・パジェットの詩を趣味で訳してます。プロフィール画像は有田カホさんに描いていただきました。