カブの葉の洗礼、その先で待つもの
自分のやり方をつらぬくテクスメクス料理のcookbook
ちゃんと呼吸して作られている自然体の料理、という印象を持ちました。
本日は、4月10日に発売されたばかりの『Turnip Greens & Tortillas: A Mexican Chef Spices Up the Southern Kitchen』というcookbookについて見ていきたいと思います。
元記事は、ニューヨーク・タイムズ紙のレヴュー記事です。
本書は、メキシコにルーツを持つシェフ、エディー・エルナンデスによる、テクスメクス料理のcookbook。
メキシコ料理とテクスメクスの違いについても理解がすすむ、良記事ですよ。
テネシー州とジョージア州で、カウンターサービスがメインのメキシカンレストランのチェーンを経営しているエディー・エルナンデスは、バーセルミにかけるチリコンカルネが大好きだ。
彼はエビにクリームと砂糖をかけ、多くの南部のキッチンから追い出されてしまうような動きで、ハラペーニョの辛さを打ち消すために歯を食いしばり、トルティーヤチップスほど湿気っていないという理由で、フリートスを使ったチラキレスを作る。
サルサをかけて煮込んだチラキレスは、普通はトウモロコシのトルティーヤを揚げたものを使うのですが、エディーのレストランでは市販のフリートスを使うのだそうです。
いかにカジュアルなレストランかがわかりますね。
では人気のハラペーニョ・チーズ・ディップは? それは全乳と、アメリカンチーズの特別なブランド「ランド・オ・レイクス・エスクトラ・メルト」をもとにして作る。
これも厳選したチーズというわけではなく、ちょっと高級な市販品です。
「ぼくは正しい食事を作っているわけじゃない」と、彼は新しいcookbook『Turnip Greens &Tortillas: A Mexican Chef Spices Up the Southern Kitchen』のなかで語っている。彼はその本を、元アトランタ・ジャーナル・コンスティテューションのフード編集者のスーザン・パケットとともに、ホートン・ミフリン・ハーコートのcookbook編集者で出版レーベル名にもなっているラックス・マーティンのために書いた。「もしフード警察がこれを嫌ったら、ぼくを起訴することができるよ!」
どこの国にもこういう○○警察っているんですねぇ。
63歳のエルナンデスさんは、たくさんの国からアメリカ南部に移住してきた移民たちの世代のひとりで、自分たちの料理のルーツと、新しい国で発見した豊かな素材のあいだに類似性を見出し、それを利用することで成功をなした。
エルナンデスさんにとって、それはそれほど大きな飛躍ではなかった。メキシコ人はトウモロコシのトルティーヤを食べる。南部のひとたちはコーンブレッドを食べる。メキシコ人は豚の脂を溶かして使い、ラードを節約する。南部のひとたちはベーコンを調理し、動物油を節約する。メキシコ人はバルバコアを作る。南部のひとたちはそれをバーベキューと呼ぶ。
「国なんてものは、ぼくとは無関係なんです」レストラン「タケリア・デル・ソル」のアトランタ店で、エビのスープにパスタとトウガラシを入れながら彼は言う。「手に入るもの、そしてそれでできることが大事なんです」
手に入るなら、そしておいしければ、パスタだって入れちゃうんです。
近ごろ、料理の正統性について重要視しすぎなんです、と彼は続ける。「メキシコでは食べたいものを食べ、この国の料理では何が正当化なんて考えません」と彼は言う。「あり合わせのものでなんとかおいしいものを作るんですよ」
祖母から料理を習ったというエルナンデスさんは、10代のときに自分のロックバンド「ファシナシオン」とともに初めてアメリカにやってきた。ヒューストンでレコーディングの契約を獲得しようとしたが、それほどうまくいかなかった。
音楽ビジネスでブレイクしようと挑戦をするかたわら、工場とテクスメクスのレストランで10年ほど働いたあと、彼はアトランタに引っ越した。ずっしりとした金のアクセサリー、ピアスをした耳、長いロッカー・ヘアーだったにもかかわらず、南部の控えめな息子、マイク・クランクの経営するレストランで職を見つけた。
この本で献辞を捧げたクランクさんと彼は、いまや7つのレストランを経営するタケリア・デル・ソレ・チェーンのパートナー同士だ。エルナンデスさんはたくさんの小麦粉のトルティーヤに包んだカルニータと、グリーン・ポーク・チリを販売する。しかしメニューには、フライドチキンにライム・ハラペーニョ・マヨネーズをかけて包んだタコスや、スパイシーなキャベツシチューを添えたメンフィス風の燻製ポークなど、彼オリジナルの南部とメキシコが混じり合った料理もある。
フライドチキンのタコスって背徳感がすごいです。
クランクさんは、エルナンデスさんが南部の好みを理解するのを助けた。ふたりはアトランタの「ミート・アンド・スリー・レストラン」をめぐり、クランクさんの故郷であるメンフィスでドライラブのバーベキューを試食した。
「ミート・アンド・スリー・レストラン」というのは店名ではなく、肉料理を1品と3種のサイド料理をセットで提供する、アメリカ南部のレストランのことです。
エルナンデスさんの教育のいくつかは、単純な実験だった。最初のころ、客のひとりが彼にカブの葉が入った袋をくれた。彼はそれをどうすればいいかわからなかった。クランクさんが、南部人はそれをハムホックといっしょに長時間煮て、ポットリッカーと呼ばれるスモーキーでドロドロとしたスープを作るのだと説明した。
本書の序文のタイトルが、「ポットリッカーの洗礼」となっています。
アンダーソン夏代さんの『アメリカ南部の家庭料理』によると、ポットリッカーというのは、コラードグリーン、カブの葉、からし菜などを塩漬けの豚肉と一緒に煮込んだ後の煮汁なのだそうです。
どうして南部でこういう料理が食べられるようになったのかは、こちらのククブクのストーリーでも書きましたので、よかったらご覧ください。
するとエルナンデスさんは、家族が4分の1のラム肉の調理するさいに使っていた、スペイン語で「ケリテ」と呼ばれる野菜の調理法を試みた。彼はそれをチキンストック、トマト、ニンニクとともに鍋に入れ、チリ・デ・アルボルを加えた。その料理はレストランの定番料理となり、そのレシピは彼の本にも掲載されている。
こうして、南部料理のポットリッカーとメキシコ料理のケリテが融合し、新たな料理が生まれるわけです。
はぁ? 正統性? なにそれ? って感じですよね。
それは南部の日曜日の夕食の定番、彼の人気料理の豚肉のローストでも同じだ。少しだけ脂肪におおわれた豚ロースに、粗く刻んだタマネギとニンニクをすりつけて、余熱でハラペーニョのローストが作れるくらいに熱いオーブンに入れて手早くローストする。それから、古典的なフランス料理のルート自家製のストックで作ったグレーヴィーソースに、刻んだトウガラシを混ぜ合わせる。
そうしてできた料理は明らかに南部料理であり、彼の故郷・モントレイで食べてきたフレイバーが増強されている。彼のほとんどのレシピ同様、それは質素で実践的で、そしておいしい。
「ぼくの料理には手も足も必要ないからね。キッチンで6時間過ごす必要もないよ」と彼は言う。
まるでヨーロッパの観念論とアメリカのプラグマティズムの違いを見せられているみたい。
でもどちらのアプローチもあるからこそ、思想も料理も面白いのかもしれません。
それが特別なことではないとは言えない。少なくとも、エルナンデスさんは特別なシェフだ。彼はワカモレに使うのにライム果汁ではなくレモン果汁のほうを好む。なぜならライムは酸性が強く、アボカドを「調理」してしまうからだ。
そして彼は油でディップに使うハラペーニョを火ぶくれ状態にする。それはトウガラシの青臭さを消すためで、そのほうがアボカドのフレーバーに合うと彼は考えている。アボカドはハス種であるべきだと言う。
ほかにもエディーは、繊細な食感を出すために、南部で一般的なグリーントマトを使うのではなく、メキシコのトマティージョを使ったりしています。
「これがぼくのやり方なんです」と彼は言う。「他人がそれが好きでも嫌いでも、ぼくは気にしない」
大事なのはあまり大騒ぎしないことだと言う。「何かいい素材を手に入れて、それでおいしいものを作りたいなら」と彼はアドバイスを送る。「注意深くあることだね。すでに手に入れている良さを台無しにしてしまうことだってできるんだから」
他人の評価は気にせず、目の前にある「素材」と注意深く向き合うこと。
料理だけにはとどまらない、ものごとへの取り組みかたとして、見習いたいことのひとつだと思います。
cookbook『Turnip Greens & Tortillas: A Mexican Chef Spices Up the Southern Kitchen』には、トルティーヤの器によそうチキンポットパイや、メンフィス風のバーベキューポーク・タコスなど、話題のテクスメクス料理が満載。
ホートン・ミフリン・ハーコート社のラックス・マーティン・レーベルより発売中です!