あたらしくてふるい、イワシのまる焼き
ロンドンのプロヴァンス料理のcookbook
革新的なものが流行ると、次はかならず揺り戻しで伝統的なものが流行るわけで。
料理界でも化学調理法を駆使した分子ガストロノミーが時代の趨勢を占めたあと、土地の風土や文化に根ざした新北欧料理の時代がやってきたりするのは、世界のベストレストラン50などを毎年追っていると傾向がよく分かります。
そして2019年の今年、見事に首位に輝いたのはフランス・マントンにある「ミラズール」でした。
なんでもフランス料理店が同アワードで1位になるのは初めてのことだそうで。
いわゆる伝統的な「フランス料理」の世界的な見直し、再定義の流れがこの結果を後押ししたように思います。
今日はイギリス デイリー・テレグラフ紙のcookbookレヴュー記事から、ロンドンにあるフレンチレストランのcookbookを見ていきたいと思います。
フランス料理が再び脚光を浴びているが、イズリントンにあるアレックス・ジャクソンの「サーディン」のようなレストランでもそれは同様だ。ラタトゥイユやエルブ・ド・プロヴァンスを中心にディナーパーティー料理が展開された90年代に育ったジャクソンは、パリで学んだのち、スティーヴィー・パールの「ドック・キッチン」で働き、そこで南フランスと地中海料理に対する愛情を高めることとなった。
「サーディン」はロンドン東部、ショーディッチパークにも程近いちょっと入り組んだ地区にある、南フランス料理をメインで提供しているレストラン。
アートギャラリーに挟まれて建っていますが、サーディンの方がアートギャラリーみたい。
彼の新しいcookbookはサーディンの厨房からまっすぐお届けするものだが、そのレシピはうまく家庭用にアレンジされ、それでいて店の魔法を維持しているであろうか?
レヴューの対象となっているcookbook『Sardine: Simple seasonal Provencal cooking』も、レストランの外観イメージを踏まえたデザインになっています。
以下、いつものテレグラフ紙の形式でレヴューを読んでいきますよ。
手法
私はレストランがリリースした本にはあまり惹かれない。入手のむずかしい食材がたくさん登場するし、料理の写真には明らかに1、2本のピンセットによる手が入っていることは間違いない。
どのcookbookとは言いませんが、確かにこういう写真ばかりの本は、実際に家庭で料理を作るひとにとって現実感が乏しいことは確かです。
あ、どのcookbookか言っちゃった。
しかし『Sardine』は、私に作ってみようという気を起こさせてくれる。ジャクソンは序文で「サーディンにはウォーターバス(恒温水槽)はないし、バーベキューを作るのにいかなるガジェットも使用していない」と書いている。
章立ては季節ごとになっていて、3つのごちそうメニュー「グラン・ブフ」が独立している。
それらはレストランの月替わりディナーから生まれたもので、「ブイヤベース」、「クスクス」、そして私の大好物の「秋のグラン・ダイオリ」といったテーマが設定されている。
『Sardine: Simple seasonal Provencal cooking』の目次はこんな感じ。
グラン・ダイオリというのは、茹でたタラや野菜などをニンニクと卵黄で作るアイオリソースをつけて食べる、プロヴァンスの定番料理。
本書ではゆでダコやアーティチョーク、カリフラワーなどが一緒になって、秋の味覚を丸ごと楽しむ一品になっています。
レシピ
私は南地中海のスピリットを感じさせるもの、本のなかでもっともシンプルなもの、春と夏のセクションから旬の食材のほとんどを使って作るもの、の4つのレシピを選んでみた。
今回は4品のレヴューですね。
アーティチョックのソッカ
有名なニースの軽食「ソッカ」は、ひよこ豆の粉で作るサクッとした揚げクレープで、もともとはリグーリア地方の「ファリナータ」のように大きな薪窯で焼かれていた。
私はひよこ豆の粉、水、そしてオリーブオイルを少し混ぜて生地を作り、冷蔵庫で休ませ、そのあいだにアーティチョークを下ごしらえし、庭のローズマリーの小枝を摘んできた。このレシピでは、2ミリの厚さの生地をフライパンに注ぎ入れて揚げる前に、1ミリの厚さでオイルを入れることが必要とされている。基本的には縁をしっかりと揚げたパンケーキみたいなものだ。それから最後のひと焼きのためにグリルに入れ、短冊状にカットする。パルメザンチーズを上にのせ、海塩をふりかける。私たちは熱いうちにアイオリソースにつけて食べた。庭でビールを流し込みながら。
うち、フムスをよく作るのでひよこ豆を大量に買い置きしてあります。
今度こまかく挽いて、ソッカ、作ってみよう。
グリルド・サーディン キュウリのサラダとハリッサ添え
彼はレストランとcookbookの名前を、この料理からつけたという。だからサーディンの扱い方は上手に違いない。ハリッサは説明文で警告していたように私には辛すぎたが、トマトを2〜3個多めに入れるとバランスが良くなる。バーベキューしたサーディンにハリッサを少々落として口いっぱいにほおばり、そこにキュウリをからめて冷やすというのは、クセになる組み合わせだ。これはかならず作るべき料理だ。
さすが店名になっているだけあって、お店の公式インスタグラムにもサーディンの料理はけっこうアップされています。
この夏のバーベキューで、サーディンのグリルをレパートリーに取り入れるのもいいかもしれませんね。
ズッキーニと黒オリーブのフーガス
パンは私の得意分野ではないが、何度か挑戦すれば初心者でも完璧なフーガスが作れるというジャクソンのはげましは、納得できるものだった。
「フーガス」というのはプロヴァンスの地方パンで、もっちりとした食感と葉っぱのようなクープが特徴。
語源的にもモノ的にも、イタリアのフォカッチャの親戚のようなパンです。
実際のところ2度目の挑戦さえ必要なく、麦束のかたちをした平パンがオーブンから焼きあがった。過去のパン作りで努力を必要とされたこねの作業を一切していなくても、美味しくかみごたえがあった。
ああ、葉っぱを模しているのかと思っていたら、確かに穴の部分で「麦の穂」を表しているのかもしれません。
アンズとブラウンバターのタルト
レシピ名を正当化するほど充分なバターが含まれていて、特にそれがペストリーに含まれるものであるなら、私はなんでも食べたい。たくさんの工程が必要とされ、多くのひとはフランス風のプディングのようなものを期待するだろうが、まさにそんなところだ。アンズは完璧なほど甘くてやわらかく、ナッツ香のあるスムースなフィリングにマッチしている。私が今までに作ったなかで、最高のペストリーだ。
こちらはルバーブのタルトですが、デザート系のレシピも充実しているようですね。
判定
私はこのcookbookがとても好きだ。とっつきやすく、シンプルで、会話的で、絶対的においしい。
ジャクソンの文体には彼の好ましさが強くあふれていて、レシピはあなたを地中海にいざなってくれる。あと必要なものはロゼワインだけ。そして願わくばあと少々の陽射しを。
著者であり「サーディン」のシェフであるアレックス・ジャクソンは、バーミンガム生まれの34歳。
2016年夏のオープン以来、ロンドンのフードシーンに定着した新感覚のプロヴァンス料理を、ぜひご自宅でも味わってみてください。
このテレグラフ紙の記事を信じるなら、家庭でもきっと満足できる料理が作れるはず!